▼ ▲ ▼

「ねえ夕さん」
「何だい」
「夕さんに会わせたい人がいるんだ」
 しかしそれは、まだ先のことになることをコナンは知っていた。
「でもね、その人、今遠くにいてすぐには会えないんだ」
「ほう、遠いところかね」
「そう。すごく遠いところなんだ」
「キミが会わせたいと言うのだからさぞかし愉快な御仁なのだろう。連絡は取れないのかい?」
「うん取れないんだ。ちょっと訳ありでね」
 本当は沖矢昴として工藤宅に居候しているがその姿で会わせたところ意味がないし、コナンの私情で変装を解かせるわけにもいくまい。
「非常に気になるね。御仁は仕事で海外にでも行っているのかい?」
「うーん、その人にとってはそうなるのかな。すごく忙しい人なんだ」
 確かアメリカ国籍だったし、赤井にとっては日本が海外になるだろう。
「早く会いたいものだね。その御仁についてもう少し教えてくれるかね」
「そんな時間はねーよ」
 突然湧いた声にコナンの肩が跳ねる。
「おや松田クン。さっきぶりだね。キミもここにランチを摂りにきたのかね?」
「残念、俺はとある奴を連れ戻しにきたんだ」
「とある奴?はて、それは誰だね?」
「オメーだよッ!!!」
 松田の怒声にびくともしないどころか「おやまあ」などと呟いた片桐は、呑気にコーヒーに口をつけた。
「印鑑は押した筈だが…不備でもあったかい」
「お前の仕事は印鑑押すだけじゃないだろ」
「ええッ?」
「その顔やめろムカつく」
 ほら行くぞ、と松田は片桐の襟を掴んで立たせた。片桐はひどく緩慢な動きで伝票を取ってコナンにゆるりと手を振った。
「それじゃあね江戸川クン。また今度ゆっくりお話でもしよう」
「うんバイバイ夕さん、お仕事頑張ってね。あ、ご飯奢ってくれてありがとう」
「気にしないでくれたまえ」
 片桐と話している最中、不意に安室が松田を一瞥したのをコナンは視界の端で捉えた。