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 郵便局強盗の件について、犯人は全員逮捕され無事に終わった。現場検証は他の刑事が担当することになったので、松田はその足で鑑識課に顔を出していた。
「トメさん」
 眼鏡をかけた中年の男性に話しかける。彼は警視庁刑事部鑑識課の鑑識官で、よく現場に派遣される。今回の爆破事件の爆発物も爆発物処理班を渡ったのち、彼が押収した。
「ああなんだ、松田くんか。どうした?」
「ちょっと調べてほしいことがあるんスけど」
「いいよ、なに?」
「あ、今回の爆弾とは無関係で…」
 件の資料を取り出そうとするトメを引き留めれば、彼は「え?」と不思議そうな顔をした。まあそうなるだろうと彼の心象に同意して、本題を話した。
「人事ファイル?それも刑事課の?」
「はい」
「……理由、一応訊いていい?」
 そりゃ怪しむだろう。言いづらいことだったが、若干ぼかしながら答えた。
「…片桐の経歴が、少し気になって」
「片桐警部の?」
 トメは心底不思議そうな顔をしながらもパソコンを操作してくれた。「こういうのは警務部が専門だと思うんだけどねェ」「すんません…」文句を言いながらも素直に協力してくれる辺り、トメは良い人だ。調査を本人に知られたくないという松田の心情を汲んでいるのだろう。「検索履歴は消しておいてあげるからね」本当に頭が上がらない。後日酒でも持ってこようと誓った。
「…ん、あれ?」
 キーボードを叩く彼の手が止まる。どうしたんですかと訊いてみたら、彼は先程とは違う、速い勢いで再び操作し出した。
「……これ、ダミーデータだ」
「は?」
「今日は規制が緩くなってる。このくらいなら解析できるよ」
 突然の出来事に松田は言葉を失った。トメが言うことはつまり、ファイルデータが偽装されていたということを意味していたからだ。

『彼女がそう呼ばれていたところを見たことがあって…もし映画みたいに潜入捜査とかしていたらすごいなぁと思っただけです』

 あの眼鏡の青年のおどけた声が蘇る。
 「これって…」トメの驚愕の声に引き寄せられ、松田は画面を覗き込んだ。