▼ ▲ ▼

 安室は風で飛ばされたあるレシートを追っていた。それはただの紙切れではない。“cor P se”と書かれた、おそらくメッセージ性を孕んだレシートだ。コープスの意味は死体。文字の下にかかれた数字は車のナンバーだったのだろう。
(風力、風向、この周辺の建造物の立地状況を考慮に入れてシミュレーションすれば…風の流れが読めて飛ばされた先が絞り込めるはず…)
 事件を匂わせるそれを風に飛ばされてしまったのは不覚だったが、安室にかかればレシートの行き先を予想するなど朝飯前である。――と、その時、前方に見慣れた背中が出現した。それは電柱のところでしゃがみ込んでじっとしている。もしや気分でも悪いのかと思い、レシートのことが気にかかるものの安室は声をかけることにした。
「何をしていらっしゃるんですか、片桐さん」
 するとしゃがみ込んだその体は、待っていましたと言わんばかりにゆったりと立ち上がった。
「おや安室クン。奇遇だね」
 そう述べ、にこやかにする彼女から体調不良な気配は感じられない。なんだ自分の杞憂だったかと安室は内心舌打ちした。
「こんなところでどうされたんですか?」
「いやね、面白いものを拾ったんだよ」
「面白いもの?」
 これだよ、とひらひら揺らすのは、白い紙。安室が探していたレシートだった。思わず息が詰まった。
「安室クン、随分と急いでいたようだが……もしやこれを探していたのかね?」
「え、ああ…まあ」
「キミはレシートに落書きをするたちなのかい?」
「いいえ」
 ここで安室はこのレシートが手元にやって来た経緯を片桐に説明した。猫の首輪、コープス、ナンバー。隠すことなく全て話した。
「宅配車…それもクール便の中に死体があると考えるのが妥当だろうねえ」
 片桐の推理に安室はやはり、と思う。
「片桐さん、ちょっとついてきていただけますか?」
「うん?どこにだい?」
 勿論、宅配車までですよ。安室は不敵に笑った。