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 言葉を失うどころではなかった。呼吸すらちゃんとできているのか、今の松田は分からなかった。
「ああ、すごく惜しい。とても惜しいよ松田クン」
 狼狽する松田とは裏腹に、今度は片桐が会話を切り出した。
「そうだね、キミが公安の人間だったのなら、その情報にもう少し疑いを持っていたのかもしれないね」
「なに…?」
「おかしいと思わなかったのかい?何故私の経歴がそんな簡単にフェイクだと分かったのか」
 確かに、過去に人事課が経歴を調べたことくらいあるだろう。だかそれは寺尾や上が偽造に協力していたからこんにちまで判明しなかったものだと、松田は考えていた。
 一つ教えてあげよう、と片桐は続ける。
「キミが着眼した“sis”――これはオープンドアデータといってね、重要機密情報を探ろうとする者を炙り出す為の餌なのだよ。最近FBIがこれに目をつけてね…警察のサーバーにアクセスするかと思って人事課のデータのみ規制を緩くして待っていたのだけれど、まさかキミが引っ掛かるとは私も思いもしなかったよ」
 まあ、FBIはMI6に直接探りを入れたみたいだけどね。だなんて、淡々と述べる片桐。事件の推理をしている時となんら変わらない姿だった。「そして協力関係にあったCIAの人間が私の部下に襲撃されたのを察知するとすぐさま手を引いたよ。これがオープンドアデータであることに気づいたのだろう」

「まったく本当に忌々しい男だ……赤井秀一は」

 ぞくり。片桐の纏う空気が変わった。が、それも一瞬のことで「ああそうそう」と元の口調に戻った。
「安室クン…いや、キミのお友達の降谷零クンもまだまだだよねえ」
「!?」
「オバサンに直接私のこと訊いちゃうなんて。潜入捜査官としての自覚が足りてないんじゃないかな」
「お前、何で降谷のことまで…!?」