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「先日公安のサーバーが攻撃されたのはご存知かな?あれは実は私がやったことでね」
「…それでデータを盗んだってことか?」
「それは二流のやることだな」
 片桐は笑う。
「デジタルデータが主流の現代では、それを守る為に誰もが強靭な見えない壁を築いているだろう。だがその一方で衰退していくアナログデータに、誰もが見向きもしない」

『これじゃ何が置いてあるかみんな知らないんじゃないかな』

 いつかの資料室での出来事を、松田は思い出した。その通りと言わんばかりに片桐は頷く。
「まさか自分が警察側の人間だと決定づけたものが“学生時代の受験票”だなんて、降谷クンも考えないだろうねえ」
 つまり公安へのサーバー攻撃は囮。本当の狙いは紙のデータにあったということだ。「大体、昔のあだ名がゼロだったということをあっさりばらしてしまうのもどうかと思うよ。自分が珍しい名前の持ち主だって自覚しなきゃ。おかげですぐに調べがついたよ」否定的な意見を述べる片桐。しかしそこにはどういうわけか長嘆が込められているような印象を受けた。
 松田のそんな違和感に気づくことなく、片桐は続ける。
「とはいえこれもある程度のネットワークを介してデータを揃え、それを裏付ける為に紙で保存されているモノを探したんだ。まさか本当に、あの資料室で見つけられるとは思わなかったがね」
 日本警察も甘いな、と心底侮蔑を込めて彼女は述べた。

「さあ、そろそろお別れだ」

 片桐は人差し指に力を込めた。松田の唇に触れた、あの指先に。