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「どうして…」
 掠れた声が海に浚われる。
「どうしてあの時…俺や萩原を助けたんだ」
 今の話と殆ど関係ないことを訊けば、片桐が片眉を上げる。だが松田にはどうしても腑に落ちないことがいくつかあった。その内の一つが、それだった。
「…知っていたんだよ、在り処を」
「、は?」
「あの犯人は…組織に買われていてね、萩原クンとキミの時、私は爆弾の在り処も解除の仕方も知っていたんだ」
 なんということだ。松田は一瞬呆気にとられたがすぐさま我に返る。片桐の発言はつまり、組織に対する反逆行為を意味していたからだ。松田がそれを問いただす前に、片桐が答える。
「気まぐれさ」
 冷めた声だった。
「ただの気まぐれでキミたちを助けた。そうだろ?まあそのおかげで彼には次邪魔したら殺すと言われるほど嫌われてしまったが。…ともかく、人が人を助ける理由なんか、その程度だろ」
「そうかよ…じゃあ、お前は随分な天の邪鬼なんだな」
 その発言に彼女は不可解そうに眉をひそめた。笑顔はもうない。
「今回の事件もそうだ。結果的にお前は一人の犠牲者も出さずに事件を解決した」
「…」
「立てこもり事件の時もお前は自分の身を挺してあのガキを守った。俺も萩原もあのガキも、お前に救われた」
 特に松田や萩原は、あの時あの場所で死ぬ運命だった筈だ。それなのに片桐は知識を利用し、自分たちを助けた。犯人を野放しにしたことは許されないことだが、彼女が本当に組織の一員で松田たちを裏切っていたのなら、その行動は矛盾している。
「警察官だから」
 片桐は告げる。
「今の私は警察官だから、そうしただけだ」
 それ以上も以下もない。潜入している以上、その役を全力で務める――そう言っているようであった。
「片桐―」
 松田は嘘を見抜いていた。

「お前は今、どこにいるんだ」