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降谷は松田の両肩から手を離し、俯いてから口を開いた。
「スコッチは…あいつのコードネームだったんだ…」
彼の表情と“コードネーム”に、誰のことなのか察する。「そんな……」予想外の人物に松田は驚きを禁じ得なかった。
「あいつら…知り合いだったのかよ」
「…なあ松田、片桐夕は『スコッチの言った通りだ』ってお前に告げたんだな?」
「あ?ああそうだ」
それがどうしたと問うてみれば、振谷はおかしいと言った。
「それはつまり、あいつは片桐にお前のことを話していたということになる」
「は?でもあいつは…」
「そうだ、潜入捜査官だ。身内の情報を敵に流すなんて許されない」
だが実際片桐はそう仄めかす言葉を残した。そして、最後に見たあの顔、あのせりふ。「もしかしたら」松田は胸のどこかが灼ける錯覚をした。
「いわゆる“特別な関係”ってやつだったんじゃねえの」
「それだけで、あいつは言うものか?」
「知らねえ。ただ、俺たちが想像できない関係だったってのは確かだろ」
今となっては神のみぞ知る、だ。できることなら考えたくない。
「なあ松田」
松田の心情を知ってか知らずか、不意に降谷は持ってきていた紙袋の中に手を突っ込んだ。彼の性格上、きっと見舞い品ではないだろう。一体何が出てくるんだと期待せずにぼんやり眺めていれば、見覚えのあるものが出てきた。
見間違える筈がない。この変わった帽子は、片桐のものだ。
「お前が撃たれた現場から押収されたものだ。お前が持ってろ」
「……良いのか、俺が持ってても」
「むしろお前以外に適役がいるか?」
にや、と笑い松田に帽子を押し付ける降谷。こういう時無駄にお節介なところに腹が立つ。しかし今は有難かった。
「…三年前、あいつに助けられた」
「ああ」
「初対面も、その時だった」
「ああ」
「それからあいつはどんな時でも一人でへらへら笑ってた」
「ああ」
「そんなあいつに俺はずっと助けられてきた」
「…、ああ」
『最初にわたしを助けたのが、きみだったら良かったのに』
「あいつはずっと助けを求めてた。笑ってるだけじゃなかった。たまに見せるあいつの暗い部分に気づいてた、分かってた、でも俺は…何もしなかったんだ……」
なにが優越感だ。なにが自分だけ見られてラッキーだ。彼女は、松田なら察してくれるかもしれないと思っていたのかもしれない。助けてくれるのかもと期待していたのかもしれない。松田が違和感に気づいてくれたと確信していたかもしれない。
「俺はあいつに何をしてやれる」
ディアストーカーを握る。持ち主がいた頃手入れがされていたそれには、深い皺ができていた。
「…あまり、自分を責めすぎるなよ」
降谷はただ一言そう残すと、病室を出ていった。
白いカーテンが揺れる。病室は茜色に染まり、夕方の景色になっていた。白から茜に変わるそこは、段々と逢魔時に近づいていた。まるで、この世の終わりみたいだ。
ディアストーカーをかぶる。癖毛が潰れた様は、ひどく不格好だった。