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 それからは速かった。瞬く間に降谷の部下である風見がやって来て、すぐに警察病院に移動し、片桐の緊急手術が行われた。
 降谷がやって来たのは、その直後だった。
「色々事情を聞かせてもらいたいが…松田、取り敢えずお前は着替えてこい」
 血塗れだと指摘され、漸く己がとんでもなく真っ赤に染まっていることに気づいた。正直手術室の前を離れたくなかったが、仕方がないので別室で降谷に用意されたスーツを着る。
「で、どういうことだ」
 経緯は何も話していなかったのだから、第一声がそれでも仕方ない。松田は髪を掻き乱してから「…片桐は組織の仲間だった」と告げた。


「…お前は鋭い奴だと思ってたが、まさか組織のことまで調べ上げたとはな」
「内情は知らねえ。ただ、そういう組織があるってことだけだ」
 全てを話し終えたあとの奴の感想は、それだった。降谷は暫くなんてことだと頭を抱えていたが、やがて本調子に戻って告げた。
「警察官とはいえ、こんなこと、お前が知って良いことじゃない」
「分かってる」
「…、お前、本当に分かってるのか。いくら彼女がお前のことを守ったからといって、彼女が無実になるわけじゃない」
 ダン!降谷が机を叩く。彼の怒り心頭な様を見るのは久しぶりだ。「片桐夕はスパイだ!お前の言い方は、スパイを庇おうとしているように聞こえる!」その通りだと、内心で頷く。松田は自分が片桐を必死で庇おうとしていることに気づいていた。自覚して尚、それでも、松田は意見を変える気はなかった。
「……とにかく続きは片桐夕が目覚めてからだ。お前も同席してもらう」
「ああ」



 片桐が目覚めたのはそれから二日後のことだった。彼女はただ静かに目を開けて、薄氷の瞳で周囲を観察した。「死にぞこなったか」ただ一言、そう述べる。
「そんな風に言うもんじゃねえだろ」
「やあ松田クン、おはよう。調子はどうだね?」
「最悪だな」
「ははは、また想い人にでも振られでもしたか。駄目だよそんなんじゃ」
「…。そうだな」
 そこから片桐は視線を松田から降谷に移した。「安室クン…ではないね。今のキミは降谷クンと呼んだほうが良さそうだ」その発言に降谷の眉が不快気に震えた。
「まさか貴女がスパイだとは夢にも思わなかった」
「そうでもないだろう。だってキミは、私のことを毛嫌いしていたじゃないか。何かしらの疑いを持っていたんじゃないのかね」
「…得体のしれない人だと思っていただけだ」
 それで、と「あらかたの事情は聞いた」降谷は続ける。片桐は落ち着いていた。
「今、寺尾警視の捕縛令状を申請中だ。お前ら組織の人間が炙り出されるのも時間の問題だ」
「消されるな」
「は?」
 どういう意味だと、降谷が睨む。「寺尾を捕まえようとしても無駄だと言っているんだ」片桐は冷淡に告げた。降谷の瞳がどんどん鋭くなる。仕方がないので松田が代わりにどういう意味だと訊ねた。