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 宅配業者の格好をした男が二人、コンテナの扉を開けて中を覗き込んでいる。こちらには全く気づいていないようだ。片桐に車内にいるよう言いつけ、安室は外に出た。
「すみませーん!」
 声をかければ男たちはびくりと震えた。こちらを見るその顔は恐怖と困惑に彩られている。
「この路地狭いんで譲ってもらえませんか?――傷つけたくないんで」
 安室に中を見られないよう男の一人が慌てて扉を閉めようとしたが、その前に小さな影が飛び出てきた。最近よく見る子供たちだ。子供たちは安室に大声で助けを求めた。子供が安室の名を呼んだことにより、犯人たちは彼らが知り合いであることを知ったのだろう。慌てて安室に掴みかかろうとしたが、それよりも早く安室が鳩尾に拳を沈めたことにより犯人はすぐに萎縮した。
「いやはや素晴らしい拳だったね、安室クン」
 ぱんぱんと疎らな拍手に振り向けば、いつの間に車内から出ていたのか片桐がガムテープを手首にぶら下げて佇んでいた。
「これで犯人を縛りたまえ」
「ありがとうございます」
「ああ、キミのダッシュボードを無断で開けてしまったのは謝るが、非常事態なのだから見逃したまえよ」
 顔に出てしまっていただろうか。「とんでもない、持ってきてくれてありがとうございます」慌てて取り繕ったが、片桐の深い笑みが見逃してくれたのかどうかは分からなかった。あの中に怪しまれるような物を入れていないと思うが、彼女の洞察力と推理力では何がヒントになるか分からない。後で改めようと安室は思った。
「夕さんも来てくれたんだ!」
 コナンの嬉しそうな声に片桐の興味はそちらへ移った。自分と違い、片桐はコナンの信用を完璧に得ている。一般人からすれば明らかに片桐のほうが怪しいのに。この少年の感性は分からないものである。しかしながら、彼の傍に隠れている少女・灰原哀はいつも安室に向けている怯えた瞳を片桐にも同じように向けていた。ただそこには一つ、当惑の色もある。敵か味方か図りかねているのだろうか。
「警察には連絡しておいたから、じきに応援が来る筈だ」
 そう述べてから、片桐は不意に背後を見やった。「どうされました?」すかさず安室は問う。
「………いや、大したことではないんだよ。ただ、あの家、幽霊でも出そうな雰囲気だなあと思って」
「夕お姉さん、幽霊苦手なの?」
 歩美の質問に片桐は笑みを更に深くした。
「いいやむしろ逆だよ。是非とも会ってみたいね」
 安室は阿笠邸の横にいる工藤邸を一瞥する。二階にあるカーテンからできている僅かな隙間から、確かな人間の気配がした。