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「なんかごめんね、松田刑事」
「お前が詫びることじゃねえだろ」
「いやまあそうなんだけどさ…」
 すっかり松田のことなど忘れ、子供たちと遊んでいる片桐をコナンと二人で眺める。記憶のない彼女がどこまで自衛できるか判断がつかないため、第三者には警戒しておく必要があるが、ここは大きな公園で人の目もあるため不審者の心配もなさそうだ。
「でも本当に覚えてないんだね」
「ああ」
「……寂しい?」
「まあ、そりゃ…な」
 何にも知らないまっさらな片桐。組織のことなどなかったのなら、こういう感じに育っていたのだろうかと考えもしたが、やはり何か違うものがある。
「記憶がないから、あいつは普段抱えてる荷物を下ろしてる。だからああいうガキっぽい態度を取れるんだろう」
 それが悪いことだとは思わないし荷物は少ないほうが良いこともある。ましてや、犯罪絡みなら尚更。「…でもなぁ…」それだけじゃないのだ。
「今までの過程で抱え込んできたものは、あいつを形成する一部になってる。そしてそれがないから寂しく思うし物足りなく感じる」
「…………」
「多分俺は、他人から見れば重荷にしか見えないところも含めて、あいつに惚れてんだろうなぁ」
 独白にも似た発言をして、煙草の煙を吐く。灰色はたちまち子供たちも含めて片桐を隠した。
「松田刑事ってやっぱりすごい大人なんだね」
「は?」
 何を言ってるんだと目を瞬かせていると、コナンは笑った。
「だってそれって夕さんの全てを受け止めるってことでしょ?普通の人にそんなことできるとは思えないよ」
「そんなもんか?」
「そうだよ!ボクも見習わなきゃ」
 にこにこ笑いながら大人が喜びそうな言葉を口にするコナン。調子の良い奴だと笑って彼の頭を乱暴に撫でた。痛いよー、と言いながらも彼は松田の行為を止めなかった。
「コナンくん!松田刑事!!」
「た、大変ですー!!」
 穏やかな空気を引き裂く声。少年探偵団だ。
「どうしたおめーら。あれ?夕さんは?」
「それが…」
「悪いヤツらに捕まっちまったんだ!!」
 どくりと、心臓が嫌な音を立てた。
「――どういうことだ」
 鋭く、冷たい声が出た。子供たちは息を呑んで戸惑いながらもきちんと答えた。曰く、空き巣に入った男たちを偶然少年探偵団が目撃してしまい、攫われそうになったところを片桐が逃したらしい。
「大丈夫です!僕、車のナンバープレート覚えてます!」
「でかしたぞ光彦!」
 彼からもたらされた情報を警視庁に送ると同時に、松田は走り出した。(くそっ…)片桐のあの無邪気な笑顔が脳裏に過った。