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 土曜日、松田たちは私服で杯戸ショッピングモールにやって来た。ちなみに片桐は以前松田が買ってやったワンピースを着用している。めちゃくちゃ可愛い。何だかんだで今までデートする暇がなかったので、記憶がないとはいえ初デートで自分がプレゼントした服を着てくれる嬉しさは筆舌に尽くし難い。
「なにニヤニヤしてるの?気持ち悪いよ」
「お前……そういうところは相変わらずだな」
「?」
 軽口を叩きながらショッピングモールに到着する。片桐を窺ってみるが「ふぅん」と一言漏らしたのみで反応は薄かった。
「ここで会ったの?」
「いや、正確には観覧車だ」
「は?」
「俺たちの初対面はな、爆弾の解体現場なんだよ」
 経緯を大まかに説明したが、片桐は腑に落ちないような顔をしていた。「わたしは何できみよりも先に観覧車に乗っていたの?」ゆっくりと回るそれを眺めながら、片桐は呟いた。まさか犯人の計画を知っていたなどと話すわけにもいかず、松田は適当にはぐらかした。
「乗ってみるか?」
「…うん」
 どういう因果が、72番ゴンドラが松田たちを迎え入れた。戸惑いながらも今更退けないので乗り込む。片桐は興味深そうに外を注視した。
「わたし、多分観覧車乗るの初めてだ」
「は?いや、だから爆弾の…」
「確かにその時乗ったけど!こういう状況で乗ったの初めてなの!!」
 娯楽目的では初めて、ということか。言われてみれば彼女はどこか浮ついた雰囲気だし、案外本当なのかもしれない。(…記憶のあるお前と乗ってみたかった、なんて言わないほうが良いよな)今になって“片桐夕”がいない寂しさを自覚してしまい、複雑な気分になる。
「どうしたんだい?気分悪くなった?」
「いや、平気だ。そろそろ終わるな」
「本当だ。残念」
「また連れてきてやるよ」
 そう言えば片桐は満足そうに頷いた。
 観覧車を降りてから、二人はショッピングモールを見て昼食を摂った。本当にただのデートをしているみたいで松田は不思議な気分になった。いつもは突然仕事が入ってくると二人とも素早く気持ちを切り替えるものだから、あまりゆったりと過ごせなかったのだ。
「あれ?夕おねえさんに松田刑事だ!」
 ショッピングモールを出て街をふらふらと歩いていると、偶然にも少年探偵団と出会った。記憶のない片桐は当然彼らを怪訝そうに見つめる。
「お二人でデートですか?」
「きゃーっ!すてき!!」
「つーかおめーら付き合ってたのかよ!」
「お、おいお前ら邪魔しちゃ駄目だろ!」
 彼らの背後にいたコナンが何とかして引き離そうとしているが、どうやら無駄に終わりそうだ。
「近所の子供たちなの?」
「あーいや、そういうわけでもないんだが…」
 現場でよく会う子供たちと説明したところで、理解できるとは思えない。
 子供たちは早速片桐の様子に気づき、どうしたのだと訊ねてきた。事情を知っているコナンが皆に説明してやれば一様に悲しそうな顔をした。「じゃあ片桐警部、僕たちのこと全然覚えてないんですか?」光彦のしょんぼりした声に「うん」と容赦なく頷く片桐。もうちょっと申し訳なさそうにしろよと言いたいが、記憶喪失は彼女の所為でもないため黙っておく。
「じゃあ、私たちが協力するよ!」
「少年探偵団の出番だな!」
「…おいおめーら、松田刑事に任せておけば良いだろ」
「コナン君何でそんなに冷たいんですか!?」
「俺たちだってねーちゃんと一緒に事件解決してきたんだからよ、何か思い出すかもしれねーじゃねーか!」
「いや俺が言いたいのはそういうことじゃなくて…」
 折角の二人きりの時間を邪魔したくないのだろう。この子供は本当に気遣いができる。
「良いぜ、時間あるし。片桐も何か思い出すかもな」
「わたし本当に子供たちと話したことあるのかい?」
「クレープとか一緒に食ってたな」
 覚えがないのだろう、片桐は不思議そうに首を傾けた。