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『……は?』
『どうしたんだい、そんな間抜けな顔をして』
『い、や…お前、誰だ。何でここにいる』
『決まっているじゃないか。景色を見る為だよ』
『なっ…知らねえのか!?ここには爆弾が仕掛けられてんだぞ!係員の指示が聞こえなかったのか!』
『うるさいなあ。そもそも降りようとした瞬間にキミがここへ乗り込んできて降りられなかったんだからキミにも非がある。過失は50/50だ』
 『時に』とその女――当時は人相を知らなかったから松田にとっては得体の知れない一般人だ――は爆弾を指差した。
『どうやら爆発する三秒前にヒントが出るらしいね』
『あ、ああ…』
『困ったねえ、このままじゃ殺されちゃうねえ』
 言葉の割に全く慌てていない女に、松田は爆弾のことなど忘れて当惑した。なんなんだこいつは。どうしてこんなにも落ち着いていられるんだ。
『もう一つの爆弾はどこかの病院なのだろう?』
『なっ!?』
 何故お前がそれを。松田は困惑した。
『三秒前にヒントが与えられる、か。まあとにかく三秒まで待とう』
 そう言い、女は優雅に足を組んだ。
 ―――三秒前、ディスプレイにはアルファベットが一文字ずつ表示された。
『切れ』
 まだアルファベットは出てきている。松田がその一言に反論する前に女は松田の手を上から握り、無理やりコードを切らせた。
『何を急に!!』
『米花中央病院だ』
『、は?』
 早く伝えろと促され、松田は渋々メールを送信した。そこからは松田の携帯電話が吉報を受信するまで、ゴンドラは沈黙で満たされた。
 松田が、一緒に乗り合わせたその女が話題の片桐だと知ったのは、観覧車から降りた直後だった。
『片桐さん!?何で松田くんと一緒に…?』
 佐藤の戸惑いの声に、松田はこの女が萩原を救ってくれた警察官であることを知った。
 そこから紆余曲折ありこうして共に仕事をしているがいまだ松田は片桐に振り回されっぱなしである。とはいえ片桐に対し、松田は少なからず好意的な感情を抱いている。それが異性的なものであるかはさておき、こんにちまで自分だけでなく萩原まで生き延びているのは間違いなく片桐のおかげだ。仕事を放ってどこかへふらふらする彼女に手を焼いているが、内心では萩原と同じように松田は片桐を慕っていた。
「松田ぁ、お前なにニヤけてんだよ」
「別にニヤけてねーよ」
「いーやニヤけてた。……片桐のこと考えてたろ?」
 あ、この顔はめんどくさいこと考えてるな。と松田は辟易する。
「お前口では乱暴に言ってっけど、片桐のことだーいすきだもんなぁ」
「うぜぇ」
「いってぇ!?」
 頭を叩けば萩原は大袈裟に体を震わせた。大して痛くもないだろうに。顔が笑っている。
「ほら、とっとと戻れ」
「えーっ」
「野郎がンな声出すな気持ち悪い」
 駄々をこねる萩原を押し戻し、灰皿の底で煙草をすり潰す。時計を見ればいつの間にか一時間ほど経過していた。きっと疲労を隠して帰ってくるだろう片桐を思い浮かべ、コーヒーでも淹れておいてやるかと席を立った。