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 ―――江戸川コナンは杯戸中央病院にて安室透と出くわした。そこで安室の昔のあだなが“ゼロ”であることと、楠田陸道という男を探していることを知った。ふとコナンの中である疑問が浮かび上がるが、それを解き明かす前に殺人事件が発生した。
「キミはよく現場に居合わせるねえ」
 現場検証にやって来た片桐にそう言われ、コナンは思わず苦笑を浮かべた。
 事件は無事解決し、帰る頃には日が暮れていた。「しっかし見舞い客を毒殺とはな…」毛利の呆れ混じりの声にコナンも眉根を寄せた。体を治すべきところで命を奪うなど言語道断だ。
「正直呪われてますよ、この病院…前にも色々あったみたいだし…」
「色々?」
「ええ。アナウンサーの水無怜奈が入院してたって噂になったり、怪我人が押し寄せてパニックになったり、爆弾騒ぎもあったとか…」
「じゃあ楠田陸道って男の事とか知りませんよね?」
「楠田陸道?…ああ!そういえばその爆弾騒ぎの何日か前にこの近くで破損車両が見つかって…その車の持ち主が楠田陸道って男でしたよ!」
 あまり期待していなかったのだろう安室は、高木の思わぬ発言に興味を示した。「た、高木刑事!」楠田を探っている安室にそんなことを教えるわけにはいかないので、慌てて会話に割って入ろうとしたが、
「高木クン」
 片桐のほうが早かった。
「一般人にそのようなことを話すべきではないよ」
「す、すみません!」
 片桐の咎立に安堵する。流石は夕さんだ、とコナンの中で片桐への好感度が上昇する。
 高木は車を出してくるとのことで、片桐を置いて駐車場へ向かった。毛利父娘もそろそろ帰ると歩き出した。本来ならコナンはそれについて行かなけらばならないのだが、なんとなく片桐を置いていくのは憚られた。
「片桐さんは楠田陸道を知っているんですか?」
 コナンのことなど意に介さずめげない安室。相変わらずの微笑みは片桐に負けない。片桐が安室と目を合わせた瞬間、コナンの背中が粟立った。
「そうだねえ、その事件なら知っているよ」
「おや、そうなんですか」
「中々に面白いものだったよ」
「面白い…?」
 おっと、と片桐はわざとらしく声を上げる。
「気になるなら自分で調べたまえ。仮にも、探偵なのだろう?」
 ぴりっ。空気が張り詰める。片桐はもしかして安室が組織に通じていることを知っているのだろうか?コナンの心臓が早鐘を打つ。
 暫し沈黙。だがやがて「…そうですね」と安室が呟いた。安室は簡潔に別れを述べると足早にその場を去った。なんだが肩の力が抜けて、コナンは大きく息をつく。