今日は、いや今日も荒れていた。
 雰囲気も戦い方も何もかも、彼は荒れていた。
「ギーマさんどうしたんでしょうか…」
「関係ない人間が下手に刺激しないほうがよろしくてよ」
 シキミとカトレアの内緒話にこっそり聞き耳を立てながら、中途半端に関わってしまった己はどうすれば良いのだろうとレンブは焦っていた。
 彼の親友である名前と知り合ったのは別に良い。騒動について相談されたのも構わない。力になりたいと思う。しかし今のギーマに話しかける勇気が………レンブも他の人間にも、なかったわけである。
 思わず身を引いたところで、とす、と背中を押された。何かと思えばローブシンが行けとばかりに円柱をレンブの背中にぐいぐい押しつけていた。
(そうだ…ここで諦めてどうする!!)
 今にも泣き出しそうだった名前の顔を思い浮かべ己を奮い立たせる。彼らの仲を改善させられることができるのはもしかしたら己だけかもしれないのだ。見過ごすことはできない。
 チャレンジャーもいなくなり女性二人もどこかへ消えたところでレンブはギーマの背に声をかけた。
「少し良いか?」
「…構わないよ」
 素っ気ない態度を取られるかと思い冷や冷やしたが、受け答えは案外普通だった。外見通りやはり彼も良い大人だったらしく、傍から見れば荒れている雰囲気も、決して他人へは向けられなかった。どうやら戦闘中のみ漏れ出るらしい。
 己の部屋に案内し、適当な椅子に座らせる。
「で、何だ。手短に頼めるか」
 ――とはいえやはり言葉尻が平生よりは刺々しい。
「あ、ああ、そうだな…ここ二三日、様子がおかしかったなら何かあったのかと思って」
「君に話すほどのことはないよ」
 あの時の名前と同じ回答で少し微笑ましくなる。緩む口角をなんとか抑え込み「そうか?」と会話を続けた。
「失礼だが最近のお前を見る限りとてもそうは思えない」
「……、」
「そうだな、例えば…友達と喧嘩をしてしまったとか?」
「…!」
 ギーマの形の良い眉がぴくりと跳ねる。猜疑のある瞳に、流石に直球すぎたかと反省した。
「君、私の今の状況を知ってるのか?」
 流石はギャンブラー。嗅覚が鋭い。
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