『あなた、実は男として彼のことが好きなんでしょ』
 カミツレの言葉がずっと反響している。まさか、そんな、と最初は思ったが、一人になって考えてみる内にもしかしたら彼女の言う通りなのかもしれないと思い始めた。つまり名前はギーマを親友ではなく男として傍に置いておきたかったということになる。ギーマは、気づいていたのだろうか。
 ―――最低だ。
 多分ギーマは名前の深層心理に気づいて嫌気が差したのだ。親友だと思っていた相手にそんな風に見られて気味が悪いと感じた。だから友達でいたくないと言ったのだ。
 ―――帰ろう。
 ―――早く帰ろう。
 一刻も早くイッシュから発ちたい。こんな下心のある状態で彼のいる地にいれる筈がなかった。折角会えたカミツレには申し訳ないが昨日の時点で別れを告げ、小さな荷物をまとめてホテルを出た。もうここには来ないつもりで、出た。カミツレは困った顔をしていたが名前の意思は固かった。
「別にカミツレさんのせいじゃないのになぁ…」
 確かに自分の気持ちに気づいてしまったきっかけは彼女の言葉だが、ギーマにあんな言葉を言われた以上どの道名前は二度とイッシュには来ないつもりだった。結果は変わらない。
「は〜まさか私が恋愛感情なんてエッ!?」
 どすん!とすごい衝撃が肩から背中にかけて伝わった。
「ちょ…っ…なに!?」
 妙に重いものが背中に乗っている。少し動いたりしていることからただの荷物というわけではないらしい。何だろうと首を反らせば赤紫色の体毛が見えた。
「レパルダス!?」
「………」
 鋭い眼光はあるトレーナーを想起させる。(このレパルダス…まさか、ギーマの?)ものすごく嫌な予感がした。「おいレパルダス、どこへ行った」聞き覚えのある男の声が革靴の音と共に近づいてくる。早く、早く逃げなければ――心は逸るのに背中の重みは消えてくれない。それどころか名前の背中に横たわってくつろぎ始めたではないか。
「いや私の背中はソファじゃないから!!」
 思わずつっこんでも彼女は素知らぬ顔だ。
「――驚いたな」
「ッ!!」
 視線を正面に戻せば、見覚えのある革靴とスーツの脚があった。
 顔が上げられない。よりにもよってこんな間抜けな格好で出くわすなんて、想定外にも程がある。
- back -