「レパルダス、退いてやるんだ」
 ギーマの一言により彼女はすくっと立ち上がって背中からあっさり降りた。その瞬間慌てて起き上がりギーマとは反対の方向に逃げようとしたが、またもやレパルダスの足に踏まれる羽目になった。どうあっても逃さないつもりらしい。
「…………」
「……レパルダス」
 いい加減勘弁してやれという呆れ混じりの声音に渋々従うレパルダス。彼女の行為により逃げられないことは明白になったので名前は素直に起き上がるだけにした。ぐい、と背骨に彼女の鼻先が押しつけられる。もしや仲直りしろと言っているのだろうか。今更無理だよ、と目だけで訴えてみたが彼女の鋭い視線は変わらなかった。
「大丈夫か?」
 ギーマの少しからかったような声と共に手が差し伸べられる。掴むのを躊躇したが、無理に手を取られたことによりしっかりと繋がれてしまった。
「……イッシュから出るのか?」
「えっ…ああ、うん…」
「何故」
「いや、あの…」
 手を解けない。心臓が不安げに高鳴る。手から伝わる彼の体温が、妙に鮮烈だった。
「ていうか、離してよ」
「断る」
「な、何で……これから帰るのに」
「帰らせないよ」
 意外な返答に瞠目する。どういうことだと顔を上げれば強い瞳が射貫く。思わず身動いだ。
「済まなかった」
「!!」
「不快な思いをさせるつもりはなかった」
 彼が何を言っているのかさっぱり分からない。不快にさせたのはむしろこちら側だというのに、彼は何を言っているのだろう。
 名前が意図を理解していないのを察したのかギーマは言葉を続けた。
「君は男女の友情が成立すると思うか?私は思わない」
「……!」
「でも君は私と親友でありたそうにしていたから私もそれで良いと思っていた」
 その発言にギクリとする。彼は名前の心に潜む歪みに気づいていたのだ。
「だが言っただろう、私は友情が成立しないほうに……、賭けた。そしてこうなった」
 怯えて俯く名前の顔を掬うギーマ。「君がどんな友情論を取ろうがどうでもいい」目が合った時、彼は笑った。
「とにかく君が好きだ。それだけだ」
「――……、」
「だから友達にも親友にもなれない。他の男に恋人というカテゴリを明け渡すなんて、気が狂いそうだからな」
 ただただ、彼の目を見ていた。いつものように怜悧なそれはぶれることなくまっすぐ名前に注がれている。冗談などでなく、彼は本気でその言葉を口にしていた。
「済まないね、名前。私は君と友達でいたくない」
 あの時聞いたせりふも、今ではまったく違う意味を持っているように聞こえた。
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