超能力者のシャーデンフロイデ

 例の騒動から暫く経過した。あれから二人とは一度も遭遇していない。とても良いことだ。超能力は本来なら人前で発揮すべき力ではない。できることなら隠して生きたい。でなければ私も超能力者仲間のSくんのように力を狙ってくる悪い組織を壊滅させなければならない。それはかなり面倒だ。
「いってきます」
「いってらっしゃい。まあ、お母さんももう行くけど」
 母よりもひと足早く出る。勿論、テレポートで。
 ひゅんっという音を立ててついた場所はとある街の裏路地。ここは人通りが少ないためテレポートで移動しやすい――筈だった。
「「………」」
 背後に何故かあの長髪の彼がいた。
「いや何でだよ」
 ついそんなことを口走ってしまうほど、私は動揺した。すぐに移動しなければ。「ちょっと待って!!!!」テレポートに勘づいた彼が手を伸ばして私に飛びついてきた。
「!?」
「ぎゃっ!!」
 咄嗟に切り替えられるほど私は力を使いこなせているわけではない。だから、この長髪の彼ごと移動してしまった。我が家の玄関に。
 更に言うなら、まさに今出かけようと靴を履いている母の前に。
「「「………」」」
 彼は私に抱きついている状態にある。
「ッ名前から離れなさいこの不審者!!」
 瞬間、乾いた音が響いた。


 頬に紅葉模様をつけた彼、名を萩原というらしい。爆発物処理班に所属する現役の警察官だ。だから数年前の爆弾騒ぎの時、彼は現場にいたのだ。
「警察官が女子大生相手にストーカーだなんて世も末ね」
「違いますよお母さん!俺はそういうつもりで…」
「貴方にお母さんだなんて呼ばれる覚えはないわ!!」
 なんだかとてつもなく面倒なことになっている気がするが、これを止める手立てを私は知らない。
「名前ちゃん違うよね!?俺ストーカーなんてしてないよね?!」
 それも知らない。大体私のことを探していたのであれば、それはストーカーと変わりないのでは。
 と、思ったそんな時、彼の懐から着信音が聞こえた。彼の顔つきが一気に変わる。「出ても良いですか」事件かもしれない。母も許可した。
「なんだ松田か…ああいや、今あの子の家に……ほらあの子だよ!例の爆弾から助けてくれた!」
 内容から察するにサングラスの彼だろう。「なに?名前にはもう一人ストーカーがいるの?」完全に勘違いしている母。
「ストーカーというか…私の力を知りたがってる人」
「ストーカーじゃない。良いわ名前、その人連れてきてくれる?」
 え。

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