純黒の悪夢/中編

 疑わしきは罰せよという言葉がある。どんな結果であれ疑われるようなことをしたお前が悪いのだと、是非もなしに罰せられる。幹部であるジンがこれを土台に、よく仲間を粛清している。実際の場面に何度か遭遇したことがあったが、それはまあ何とも慈悲がないことだ。利害関係を優先する苗字でも相手に同情したことがある。
「バレようがバレまいがジンはバーボンを嫌っている。これに乗じてなんとか彼を殺そうとするだろう」
「バーボンは何故嫌われてるんだ?」
「胡散臭いからじゃない?」
「成程」
 そんな会話をしながらポイント地点へ向かう。苗字は彼らの集合場所を教えられていなかったが、ベルモットが所持している携帯端末のGPSをこっそり拝借させてもらったので場所は特定済みだ。
「それで、キミが撃つのかい」
「ああ。苗字君はドアを開けて囮を」
「私に危ない橋を渡らせるのか、酷いな」
「心にもないことを言うもんじゃない」
 そう呟いて彼はニヤリと口角を上げた。

 倉庫内は薄暗いがランプの灯りがあったため人数の確認ができた。射撃地点に向かった赤井の背を見送り、苗字もドアに近づく。(まさか“バーボン”を助ける日が来るとは…!)複雑な心中のままドアを蹴破り、一目散に車に走り込む。なんだか舌打ちしたくなる気分だった。
「わざわざ済まなかったね」
「構わない。こちらとしても降谷君を見殺しにした後の損失を考えれば協力以外に道はない」
 嫌な言い方だ。
「やはりキミは嫌いだな」
「俺は結構君のことが好きだ」
「…鳥肌立つからやめてくれるかね」

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