ぷちたま☆パニック

 ところ変わって空座町某所、森林の中。
 錦の腕の中にいるグリムジョーはいまだ身体が元に戻らず、不機嫌を極めていた。
「そんなに拗ねても戻らないんだから、折角だし楽しんでみたら?」
「なにをどう楽しむんだよ!」
「いやほら……猫の目線で世界を見てみるとか」
「フザケンな!」
 ポコポコと怒ってみるものの錦には効かない。それどころかますます笑みが深くなっていくばかりだ。何がそんなに面白いんだと不審した瞬間、妙に高い声を上げて彼女がまたもや頬ずりしてきた。その際ぎゅっと腕が締まって、若干苦しくなった。
「は〜〜〜やっぱり可愛い〜〜〜。暫くこのままでも良いんじゃない?私が面倒見るし」
「ジョーダンじゃねえぞ!大体オマエ、ソウルソサエティに帰らねえといけねえだろ!」
「連れて帰る」
「フザケン!!!!な!!!!」
 何が面白くて死神にこんな姿を晒さなければならないのだ。
 そのまま何やかんやで話しながら歩いていくと、あるポイントで錦は立ち止まった。地面にグリムジョーを降ろし、彼女もしゃがむ。
「あ?ココがどうした」
「まあ見てろ」
 錦が両手を合わせて突き出すと、眩く光る図形が現れた。「これが術式だ。……ん、ちゃんと機能してる」「フーン。ご苦労なこった」ちまちまとそんなことをするなんてグリムジョーには耐えられないだろう。こんな面倒くさいことをよくやるなと思いながら錦を見上げ、少し目を丸くする。
 いつよりちょっとキリッとした、錦。
 そういえば仕事中の彼女を見るのは今日が初めてだ。いつもはこのような顔つきで、業務に励んでいるのだろうか。斜め下から見上げている状況も加え、かなり凛々しく感じる。
「? どうした?」
「…いやベツに」
 不思議そうに首を傾げる彼女を一瞥し、グリムジョーは「まだあるならとっとと行くぞ」と歩き出した。ぽてぽてぽて、と効果音がつきそうな歩き方しかできず内心げんなりしたが仕方がない。かなりゆっくりな速度で歩くが、何故か錦が隣に来ない。怪訝に思い振り返るとこちらに伝令神機を向けていた。
「あっそのまま歩いてて」
「なにやってんだオマエ!!!!」
「こんな可愛い姿貴重なんだから動画に収めとかないと」
「消せ!!!!!」
 ぴょいっとジャンプして伝令神機を取ろうとするが逆に抱っこされてしまい、またもや自由を失った。
「さあ行くぞ!」
「オマエ…………」
 色々テンションがおかしい錦に軽く引きながらも、グリムジョーは彼女の腕の中に身を委ねた。
 その後も各ポイントで術式を確認。途中何人かの部下と合流し、誰もがちんまいグリムジョーに困惑していたが錦が「何もおかしくない」と一点張りだったため皆が口を閉ざした。グリムジョーはもう一言も話さなかった。
 とくとくと、心臓の音が聞こえる。彼女の体温と鼓動が眠気を誘う。




 いつの間にか眠っていたらしい。肌寒い風が皮膚を撫で、グリムジョーは目が覚めた。目を擦って正面に焦点を当てると、錦が優しい顔でこちらを見つめていた。
「おはよう。眠っていたな」
 なめらかな声が鼓膜にスッと通る。グリムジョーは小さく呻くと猫のように伸びをした。錦が慌てて小さな身体にしっかりと腕を回す。身体が安定していることが分かっていたグリムジョーはあくびをすると、彼女の肩口に顔を埋めた。
 ―――瞬間。
 ぼふん、という鈍い音と共に白煙が視界を遮った。
「うわぁ!?」
「ッ!!」
 身体が不安定になったと思ったが、地に足が着いていることにすぐさま気づいた。後ろに倒れ込む錦の頭に咄嗟に手を回す。グリムジョーが錦を押し倒してしまう形になったが、彼女が頭を打つことはなかった。
「あ……戻った?」
「みてえだな」
 あどけない表情でこちらを見上げる錦が懐かしい。抱き起こすと「ちょっと残念…」と彼女が呟いたため軽く頬を引っ張った。
 そのまま浦原商店へ直行する。理由は言わずもがな、一護と浦原だ。特にこんな目に遭わせた浦原にはきつくお灸を据えなければならない。
 だが、
「そーんなこと言っちゃって〜!ホントは結構楽しんだんじゃないスか」
 全てお見通しだと言わんばかりの確信的な声音と目つきに、思わずグッと押し黙った。
 確かに抱かれた感触も、膝の上で思い切り寝転ぶのも、いつもとは違う目線から見た彼女も新鮮だった。彼女の熱と鼓動を身体いっぱいに感じるのは、正直悪くない。
 けれどもやっぱり、己の腕の中で身を委ねる錦が一番安心するのもまた事実。
「あっ次は黒崎サンが試したらどうです?是非好きな子に抱かれちゃってくださいよ!」
「ふざけんな!何で俺が次なんだよ!!」
 あらぬ矛先が一護に向いたのを最後に、グリムジョーは錦を連れて浦原商店を出た。
「放っといて良かったのか?」
「あんなのにこれ以上付き合いきれるか」
 辟易として返答をして錦を抱き上げる。突然のことに彼女は奇声を上げたが無視をして、グリムジョーはそのまま黒腔を開けた。
「えっ虚圏行くの?!」
「俺をいいようにしてくれた落とし前ちゃんとつけてもらうぞ」
「ええっ!?」
 錦が尸魂界に帰還したのは約十二時間後のことであった。
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