――グリム・リーパー?物騒なあだ名だよい。
 同じ時、同じ世界の違う海原に、ポツンと吐かれた独り言は誰の耳にも届かなかった。彼は一枚の紙をまじまじと見つめた後、興味を失くしたようにその紙を放った。彼の傍に居た船員がそれを慌ててキャッチする。
 さして興味も無いらしく、紙の行方も気にせずに彼は船内へと入った。向かう先は食堂。
「おいエース…ってまた寝てんのかよい」
 エースと呼ばれたその男はフォークを持ったまま眠っていた。食べながら眠れるなど器用という言葉以外、何もない。彼はエースをまじまじと見つめたあと溜息をついた。
「………ッハ!?」
「うぉい!!?」
 ガバッ!と勢いよく顔を上げたエース。その勢いの良さについ彼は仰け反った。そんな彼に気づいたエースはキョトンとした表情で彼を見つめた。
「あれマルコ…いつの間に居たんだ」
「さっきだよい」
「そか。あー、腹減った」
 そう言うとエースはフォークを動かした。こちらの気分が悪くなるほど食事を摂る彼からそれとなく視線を逸らした折、マルコは「あ、」と声を上げる。ふお?とエースはマルコに視線をよこす。彼の視線に気づいたマルコは、大したことじゃねえんだが、と言って続けた。
「そういや新しい賞金首が出たってよい」
「新しい賞金首?どんな奴?」
「あー…なんか今までの奴と違うタイプ」
「ふぉおあう?」
「飲み込んでから喋れ!」
 机を叩くとエースは笑って詫びた。絶対反省してねえな、はしたねえ。とマルコは呆れたが船員は大体そんな感じなので深く諌めなかった。
 エースはごくんと食べ物を飲み込んでから、フォークの先をマルコに向けた。「で、違うタイプってどんなタイプ?」
 彼の問いにマルコは顎に手を添える。
「フリフリの可愛い感じの服着てたな」
「…フリフリ?」
「黒生地に白のレースをあしらった…なんて言ったら良いのやら…ワンピース?うーん」
「ゴスロリ?」
「そうそれだよい!!」
「……ふぅーん?」
 エースの脳裏に、ある少女の姿が浮かぶ。いやいやまさかと頭を振ったが、そんな彼にとどめとばかりに近くに居た船員が、
「これですよ」
 と笑ってエースに手渡した。
 彼の驚愕の叫びが船に轟くまで、あと二秒。