「マオはよォ、刺青いれねえの?」
 気持ち良い青空の下、不意にそんなことを言ったシャチに皆の視線は集まった。渦中の人物は彼の言ったことが理解できなかったのか頭上にクエスチョンマークを浮かべていた。
「えっ。マオ刺青知らない?」
「アレだよ。船長の肌に絵みたいなの描いてあるだろ?アレ、刺青っていうんだぜ」
 ほーほー。マオは口角をあげてコクコクと頷く。理解が追いついたらしい。「マオもハートの海賊団の一員なんだから、ウチのマークくらいいれとけよ」シャチは得意気に勧める。いれることに何の意味を持つのか分からないマオはうんともすんとも言わなかった。
「でも一応女の身体なんだからよく考えてから決めろ」
「ペンギン、一応って…マオは正真正銘女の子だよ!ゴスロリ可愛かったもんね!」
「まあ女の身体だけどやっぱいれたほうが良いぜ!」
 尚も勧めるシャチ。「なんだァ、嬢ちゃん刺青いれるのか?」話を聞きつけた他のクルーたちが集まる。
刺青怖いんなら小さめのいれたら良いよ。でも目立つところが良いぜ!バカ、女の子だぞ、控えめで良いんだよ。あ、じゃあ足首の辺りとかどうよ。
 マオの意見を聞かずに話を進める一同。良いのかとペンギンが問うと、マオは頷いた。
「、え!?」
「オ?何?」
「あ、いや…」
 頷いた時のマオの表情にペンギンはひどく驚いた。何故ならその表情は今まで見たことのない女の子らしいはにかんだ笑みだったからだ。(え!?ええ…?)ゴシゴシと目を擦ってもう一度マオを見つめる。しかし先程の笑みは無かった。(気の所為?)ペンギンが動揺している内にも話は纏まったらしく、マオは足首に刺青をいれることになった。早速ローのところへ向かったマオたちを、彼は慌てて追う。
 失礼しますという言葉と同時にドアを叩き開けるシャチ。直後メスが彼の頬を掠める。「うるせえ」本から目を離さずに喋るローに、シャチは顔面蒼白だ。よく顔のど真ん中にメスが当たらなかったものである。
「で、何の用だ」
「あ!船長、マオにも刺青いれてあげてくださいよ!」
「…刺青?」
 予想しなかった言葉にローは怪訝そうに本からマオに視線を移した。「何で」問うと、シャチが頬を膨らませた。
「何でって…マオだって仲間じゃないですかー!仲間の証に刺青いれたいと思うでしょ!」
「……お前、良いのか」
「別に良いヨ」
 マオの返答に多少、ローは面食らう。どうせシャチのノリに流されただけなのかと思ったのだが、案外そうでもないらしい。いつもよりも声音が若干弾んでいるし、笑みが狂気じみていない。尤も、意識しなければさっぱり分からない程度の微小な変化だが。
 本人が了承しているなら構わない。ローとマオは医務室に移動した。アレルギーも特に無いらしく、早めに施術に取り掛かった。
「どういう心境の変化だ?」
 施術の合間、ポツリと疑問を吐き出す。するとマオは何を言っているのか理解できないらしく小首を傾げた。「いや…何でもない」分からなければ、別に良い。