光っていた。月光に当たって、刀が。真っ赤に染まった、傷だらけの刀が。
“またやったのか”どこからともなく声がする。いつの間にか煙管を持った男が立っていた。この男は真っ赤な女を見据えている。
 女は縫い物をしていた。岩に腰かけて、ぬるぬると真っ赤に濡れた手で、器用に布にしては分厚いそれに糸を通していた。糸は、それを貫通すると真っ赤に染まった。
 男は女の傍に倒れているソレを一瞥する。ソレの上半身の着物は剥ぎ取られ、赤くなった背中が露わになっていた。ぶよぶよとした肉が、遠目でも分かった。「…ッた、すけ…」まだ息があるらしく、ソレは男に向かって手を伸ばす。
 それに対して行動を起こしたのは、男ではなく女だった。女は立ち上がると地面に突き刺していた赤い刀を引き抜いた。そして肉を露わにしたソレを転がし、仰向けにさせる。傷口が小石に当たったのだろうか、転がされたソレは絶叫した。女はその絶叫を何とも思うことなく、当然であるかのように男の胸元に鋒を添えた。
「…おい待て」
 男の制止も虚しく、鋒はジョリジョリとソレの薄い肌を剥ぎ取っていった。最早、ソレは絶叫することさえできない。肌を全て剥ぎ終えたソレの胸元から腹は、赤い筋肉が露出した。
 女は薄い肌を縫い物に繋げる。先程から縫っていたものは、全て皮膚だったのだ。
 あちこちに散らばる死体全てから、女は皮膚を剥ぎ取ったのだ。
「皮膚外套!できた!」
 じゃん!と男に見せびらかす女の顔に、罪悪感などありはしない。男は深い溜息をついた。
「分かったから帰るぞ。それ捨てろ」
「椅子も作ったヨ」
 女の指差すところには確かに椅子がある。だがそれは普通の椅子ではない。脚が、人の形をしている。否、本物の人の脚をくっつけているのだ。「こいつとこいつの、使った」女は両足の無い人だったものをズルズル引きずる。
「…捨てとけ。保存できねえよ」
「えー」
「早くしろ、こんなところとはいえ、見つからねえ保障は無いんだから」
 こんなところ―――薄暗く、赤黒い染みが木の幹に張り付いている不気味なところ。そんなところに、男女は居た。ここは彼らが住んでいるところから随分離れている。ここを訪れる者など、滅多に居ない。そしてここには人よりも獣に近い者たちが蔓延っている。だから女にとって、この場所は絶好の遊び場所だった。
 男は遊び足りなそうな女を一睨みして、踵を返す。今女に背を向けたら、自分も倒れているソレと同じように背の皮を剥ぎ取られてしまうのではないかと一瞬考えたが、馬鹿らしいと頭を振った。
「行くぞ」
「ちえっ」
 女は刀についた血を払い、鞘に収める。
 そんな女の様子を、誰かの目玉はじっと見つめていた―――。