――「キャプテン!」

(……ッ!!)
 背中が粟立つ感覚を受け、ローは飛び起きた。目の前には心配そうな顔をしたベポが、彼を見つめている。
「大丈夫?すごくつらそうだったよ?」
「……ゆめ、か」
「怖い夢みたの?」
 あの鮮明な赤が脳裏に蘇る。いつも見ている赤ではなくて、もっとおどろおどろしく気持ちが悪い赤色だった。自分は医者で、海賊でもあるので“ああいうもの”は慣れている筈なのに、どういうわけかあの光景に恐怖を感じた。
「…気味の悪い夢をみた」
「キャプテンがそう言うくらいなんだから、かなり怖い夢だったんだね」
「ああ。お前なんか一目散に逃げ出すくらいのな」
 やっと軽口を叩けるくらいまで回復する。正直、飛び起きた折は何も考えられなくて内心かなり焦った。
 どんな夢だったの、とベポは遠慮がちに問う。言うべきか迷い、ふとローは疑問を抱いた。
「……あの女…」
「女?女が出てきたの?」
 薄暗い中、皮膚で外套を作っていた女。何故か顔が思い出せない。誰だったか分からない。だけど、知っている筈だ。
暗い中、一人で冷たくて赤い刀を持つ女。孤独な、女。
 一体誰だったのだろうか。ローは気になったがこれ以上思い出すとまた嫌な気分になるのでやめた。
「ベポ、コーヒーが欲しい」
「アイアイキャプテン!」
 消沈する己を気遣ってか素直に従うベポ。彼の巨大な背中を一瞥し、ローは忘れようと頭を振る。
 記憶の中、金色の目玉が寂し気にこちらを窺っていた気がした。