―――薄暗い会場内、そこに明らかに楽しむ目的で来ている目つきではない男がそこに居座っていた。
「キャプテーン、笑顔笑顔!」
「…俺が今、笑顔でいられると思うのか」
「思いませんごめんなさい」
 ローの只ならぬ雰囲気に一瞬で粉砕させられるベポ。八つ当たりされた彼を哀れだと思いながらも、シャチとペンギンは八つ当たりしたくなるローの気持ちも理解できなくはなかった。

『ごめんなさい!ごめんなさいいい!!』

 数十分前、彼らの前にある少女が現れた。その少女は泣きながらローに縋ってきたのだ。そして少女は泣きながら言った。
 自分の所為でおねえちゃんが捕まってしまったと。自分がおねえちゃんを嵌めて、汚いお金を手にしたと。そしてそのおねえちゃんはヒューマンショップに連れ去られたと。少女が全てを告白した際のローの気迫といえば…それはまあ恐ろしいなんて言葉で片づけられるものではなく。縋っていた少女が気絶しかねない程の覇気を放出していた。
 それをなんとか宥め、こうして一同はヒューマンショップに足を運んだのである。
「…ッチ。いつ見てもくだらねえ」
 そう呟く彼の横顔は、どこか哀愁漂っている。己を責めているのかもしれないと、ペンギンは考える。
泣き顔の少女は言っていた。おねえちゃんは悪い男たちに連れ去られるフリをしたあたしを助けてくれた。おねえちゃんの善意をあたしは踏み躙ったのだ、と。
 ほんの少し前まで善意なんてこれっぽっちも無かったマオ。だけどその彼女が、連れ去られようとしていた女の子を助けようとした。それは紛れもなく、以前彼女に対し言った言葉が関係しているのだろう。こんなことになるくらいならあんなことを言うべきではなかった、そうローは思っているのだ。
「……船長は別に間違ったことを言ってなんかないと思います」
 だからこそ、ペンギンは言う。
「たとえそれが罠だったとしても、マオはハートの海賊団として誇ることをしたと思います」
「……綺麗事だ」
「そうです、綺麗事です。でも良いじゃないですか綺麗事で。斬ることしかできなかったマオが綺麗な事をしたんです。子供みたいに、叱られたことを教訓にして綺麗事をしようとしたんです」
「……」
「それは、褒めるべきではないのですか」
 暫くローは何も言わなかった。ただ拳を握ってステージを見つめるのみであった。

『…あいつを攫えなんて、どこのどいつに言われたんだ』
『えっと…』
『言え』
『…ホーテ、様』
『あ?』

“ドンキホーテ・ドフラミンゴ様、です”

「…とっととあのバカ連れ帰らせるぞ」
「ッはい!」
「勿論っす!」
「アイアイ!」
 憎い憎いあの笑った顔が、脳裏にちらつく。それを振り払うようにローは唇を噛みしめた。