「赤火砲」
 紡いだ瞬間、マオの手から炎の玉が飛び出す。それは壁を突き破って誰かに直撃した。その誰かというのは女だったらしい、長い髪と皮膚は焼け焦げ、服も無惨な姿になっている。
「あ、人面魚」
「“人魚”な」
 焼け焦げた女の傍にある水槽。その中に居る者を指差してマオは種族名を述べるが、すかさずレイリーに訂正されてしまう。「人面魚」「人魚にしときなさい」どちらも譲らない。
 一方、突然の彼らの登場に会場に居た者たちは茫然としていた。敵味方関わらず手を止め、彼らを凝視している。
「っマオ〜〜〜!!」
 外傷の無い彼女に安心して、ベポは涙ぐんで手を振った。マオはベポたちのところへ行こうとステージを降りて歩き出したが、足元が覚束ずすっ転んでしまった。彼女にしては実に珍しい行動である。
「お嬢さん、まだ穿点が抜けきってないだろう。無理に動かないほうが良い」
「…おっさん、どこまで知ってんの」
「それは内緒だ」
 チ、とマオは笑顔のまま憎々し気に舌打ちをする。何が面白いのかマオの行動にレイリーは豪快に笑った。
 それから彼は人魚の首輪を外したり覇気で敵を一掃したりと、色々尽力する。結局彼が何者かよく分からないまま、彼は姿を消した。
「オメー大丈夫か?」
 レイリーが去った後も座り込んでいるマオを心配してか、麦わら帽子の彼がマオの腕を引っ張り立たせた。「歩くのつれーの?おぶってやろうか?」麦わら帽子はそう言うとマオの了承も聞かずに彼女を持ち上げた。そう、持ち上げたのだ。おんぶじゃないだろとマオはつっこんだが麦わら帽子はただ笑うのみである。
「そいつはウチのクルーだ」
 声と共に、麦わら帽子の前に立ちふさがる白熊。ベポの背後では悠々と椅子に腰掛けているローが、麦わら帽子を睨みつけていた。
「お、熊だ」
「ベポだヨ」
「へー」
 麦わら帽子はベポにマオを渡す。ベポは麦わら帽子にお礼を言うと、彼は気にすんなとまた笑った。
「俺はルフィ!おめーは?」
「マオだヨ」
「そか、マオか!」
 ニカ!と笑う彼に一瞬怪訝な表情を見せたマオだったがそれもすぐに笑みに戻り、そっぽを向いた。
 彼らは外に海軍が居るという情報を掴むと、すぐさま外に出て海軍を一掃すると言い出した。それには無論、ローも参加だ。天竜人(という偉いらしい人)をボコボコにした共犯と思われて心外なのだとか(しかし婦人の天竜人はマオがボコボコにしてしまったので彼が無関係だとは言い難い)。
「そろそろ出ようか」
 ペンギンの言葉と共に他の者たちも出口へ向かう。「…あれ」そこでマオは見覚えのある金髪を目撃した。彼もマオに気づいたようで足を止める。
「っお前は!」
「え、なに殺戮武人、マオのこと知ってんのかよ」
「や、ていうかその子最近出た賞金首でしょ?私たちも知ってるわよ」
 シャチの意外そうな顔にすかさずオレンジ髪の女が口を挟む。「五千万ベリーなんて素敵よねえ!その子売ると五千万…」ニヤニヤと笑いながら危ないことを言っている彼女から、ペンギンやシャチはさり気なくマオを隠して出口へ誘導する。
 外で繰り広げられていた戦闘は、圧倒的に三人の青年たちのほうが優勢であった。マオはベポから降りて戦闘を興味深そうに眺めていたが、不意に視線は赤い髪で止まった。
「あー!」
「っ!?」
 マオの驚いた声にその赤い髪の肩は、大袈裟なほどビクリと震えた。
「ユウチャン!」
「誰がユウチャンだァ!!俺がちゃん付けなんて似合うと思うか!?」
「思わないネ」
「違いない」
「なにキラーまで同意してんだ!?」
 マオとキラーのボケにちゃんとつっこみながら攻撃を続けるキッドはなんとも器用である。ガチャガチャと武器が集まる様を、マオは近づいて観察する。危ないぞというキラーの警告はまったく聞こえていないらしい。