「おいバカ、なにユースタス屋と仲良くやってんだ」
「ケケケ」
 ついさっきまで姿をくらましていたローが、マオの襟首を掴んでキッドから引き剥がす。彼の後ろには巨人が控えていた。それに何気なく視線を向けていると何を思ったのかローは肩車でもしてほしいのか?と訊ねてきた。
「それは船に帰ってからしてもらえ」
 そう述べると彼はキッドやルフィと一緒に海軍を一掃した。
 海軍は全滅し、マオはローの能力で散らばった幾つかの身体のパーツを拾おうかと歩んだがベポに阻まれ、そのまま走り出した。なんでも海軍大将だか何だかがやって来るらしく、それに当たると厄介なことになるらしい。こちらの仕組みをまったく把握していないマオにとっては馬に念仏である。
 その時であった。
 巨漢が、目の前に在った。
「…?」
「バーソロミュー・くま…!?」
「クマ?ベポ?」
「おれじゃないよ?いやおれだけど」
「お前海賊のくせに七武海知らねえのかよ」
「そう言ってやるなキッド」
 嘲笑うキッドをキラーは窘める。良くできる右腕だなあと見当違いなことに感心するマオを他所に、バーソロミュー・くまは口から光線を放った。皆、散り散りになりそれを避けるが、敵は巨体とは思えない速さで追撃してくる。
「シャチ!刀!」
「お、おう!」
 マオの要求にすぐ反応したシャチは、持っていた彼女の刀をぶん投げる。受け取ったマオはすぐさま抜刀する。素早い動きで敵を翻弄し、隙を作って肩に斬りかかる。しかし肩は刃を跳ね返した。斬れない。見かけ通りの外見というわけではなさそうだ。
 ビュンッ。風圧がマオを叩く。刹那には敵の掌がマオに迫っていた。敵の肩を蹴って回避したがもう一つの掌が更に迫る。受け止めるしかないと判断したが、次の瞬間、掌よりも速くマオの身体に何かが直撃した。「…っで…」掌に叩きつけられるよりも前にキラーに運ばれて助けられたと気づくには、少し時間を要した。
「大丈夫か」
「……、ン」
 マオは小さく口角を上げてキラーを見つめていたが、すぐに敵へと視線を戻す。その笑みはいつも通りだ。そうしてマオはまた敵へと向かっていった。
 体力を浪費し、随分時間がかかってしまったが敵を倒すことができた一同。漸く倒せたことにより皆一息つくが、ローだけは怪訝な表情をやめずに動かなくなった敵を睨みつけていた。何やらごにょごにょと呟いているが、生憎マオは興味が無かったので耳をそばだてなかった。
「オ」
「どうした」
「…もう一匹」
「は?」
 「来るネ」言ったのと同時に、ローとキッドの前に先程倒したのと同じ姿の敵が現れる。先の戦闘で疲弊し切っているこの面子では分が悪い。というわけで戦うことはせず、逃げることに専念することにした。キッド海賊団とはここで別れ、ローたちは船へと走る。
「ユウチャン、面白かった」
「お前よく殺されなかったな…」
 海賊だろうが一般人だろうが刃向かった者、気に入らない者は容赦無く殺すキッドによくそんな渾名を付けられるものだとシャチは背筋が粟立つ。マオは良くも悪くも度胸がある。
 敵の攻撃を躱しつつやっと港に辿り着く。「船長!みんな!こっちぜよ!」見慣れた黄色の船はすぐ傍に停められていて、アシカや他のクルーたちが下船して皆を待っていてくれていた。流石は諜報員、現状把握に長けている。ローたちの姿を確認すると、クルーたちは次々と船に乗ってゆく。シャチやベポもそれに着いた。
「あっ、くまが!」
 アシカの恐怖に塗れた声に、皆脚を止める。敵はアシカを捉えていて光線を放射した。咄嗟にローは左手を上げて能力を展開させようとしたが、間に合わないことは察していた。皆、凄惨な現場を予見する。それはアシカも同じであった。(ツイてないぜよ、こんなところで…)せめて己の船長が海賊王になる姿を見たかった、そう思い、衝撃に身を固くする。しかし次の瞬間、身体にかかったのは背後にグイ、と引っ張られた感触だった。刹那、宙を舞って、甲板に叩きつけられる身体。