「マオッ!!?」
 ベポの悲鳴じみた声が耳を劈く。慌てて上体を起こして前方を見ると、マオが刀一本で光線の軌道を変えていた。光線に当たった幹は抉れ、無惨な状態になった。
「マオ乗れ!早く!」
 シャチが声を荒げる。しかしそんな悲痛な声に耳を貸すことはせず、どういうわけかマオは前を見据えたままだ。「何やってんだバカ野郎!とっとと来い!」耐え切れず、ローも怒鳴る。
 なんとなく、分かっていた。この状況は今までにないくらい絶望的で、全員で無事出航するのは難しいと。そう、“全員で”なら。誰かが一人、殿(しんがり)を務めればいけるかもしれない。誰かが一人、足留めしてくれれば。誰かが一人、犠牲になってくれれば。
「来い!早くッ!!」
 頭では分かり切っていた。だがローは呼びかけずにはいられない。誰かを一人置いて行くことなんてできるわけがない。それがたとえ、イカれた新参者であっても。ハートの海賊団として誇りを背負った者を、たった一人、戦場に置いて行けるわけがなかった。
「マオ!」
 ここで今まで黙っていたペンギンが声を張る。デッキにしがみつき、ありったけの声量で言った。
「必ず…必ず帰ってこい!必ずだぞ!嘘ついたら許さねえからな!!」
 ゆらり…。ペンギンの言葉に、マオはこちらを向くこと無く、おもむろに左手を上げる。それを見届けたペンギンは「…船長、潜水しましょう!」と進言した。「バッ…ペンギン!マオを見捨てるのかよ!」すぐさまシャチが反対したが、ペンギンは無視する。
「ぐずぐずしてる暇なんかありません!マオが作ってくれた貴重な隙です!無駄にするつもりですかッ!?」
「……ッチ…潜水するぞ!」
「ちょ、船長!」
「キャプテン!!」
 納得のいかないシャチを押さえつけ、ペンギンは無理やり中へ入る。一人を除く全員が入り終えたのを確認すると、黄色の潜水艦はすぐに海中へと潜っていった。