彼は“そこ”に居た。一体いつからそこに居たのか、そもそも意識が浮上していたのか分からない。ただ一つ言えることは、この世界はどこかぼんやりしていて浮いているような感覚を受けるのだ。
 そう、これは夢だった。
「…できた」
 小さな声が聞こえた。振り向くと簡易テーブルに部品を並べて絡繰を作っている少年が居た。少年はできた絡繰を隣に座っている赤毛の少女に渡す。(このガキ……)彼はその少女にひどく見覚えがあった。だが夢の中の少女は、彼が既視感を覚えるとある彼女とは似ても似つかぬ笑顔を浮かべていたのである。似ているのに、似ていない。
 少女は渡された絡繰を一通りいじり終えると、少年に向かってはにかんだような笑みを浮かべた。
「アリガト」
「…ん」
 少年は照れたようにそっぽを向いたが、少女は気にすることなく絡繰を再びいじり始めた。
その始終を彼はぼんやりと眺めた。ただなんとなく、視界に入り続けていたから焦点を当てていた。が、ハッとするように周囲を見渡した。
 そこは剥き出しの岩場だった。先の少年少女と同じように他の者も白い着物をまとっている。その中には岩に頭をぶつけている者もいれば、何もせず茫然自失のように虚ろな目をしている者もいる。少年少女含め、ここにいる者たちはどれも奇妙な空気をまとっていた。
 “なんだここは”夢の筈なのに夢じゃないような現実感がある。不気味さと静寂(否、頭を打ちつける音が一定して聞こえている)。ともかく彼はなんともいえない場違い感を拭えずにいた。彼はそれから逃れるようにもう一度あの少女を見る。顔の左側は真っ赤な髪が垂れていて窺えないが、右側はまん丸な金色の瞳が炯々としている。口角はつり上がっていた。

「……きしっ」

 髪色、瞳、口角、笑い方。すんなりと、彼の中で何かが解決した。(そうか)この前の気味悪いあの夢の続きで、これは彼女の幼い姿なのだ。しかしこの姿は本物なのかそれとも自分の妄想なのかどうか分からない。妄想だとしても、何故こんなものを見ているのかさっぱり皆目見当つかない。
 幼いながら奇妙な空気を醸し出す彼女は、垂れた左の髪を邪見にしながら絡繰で遊んでいる。何故左だけ伸びているのか気になったが訊ける筈もなかった。