――――(……)

 意識が覚醒する。彼…ローは目を開けた。自室の天井が見える。灯りをつけていなかったらしく、辺りは暗闇だ。手探りでランプを探したが無駄だった。ローは起き上がって頭を掻く。まだ脳裏に残っている幼い頃の彼女を見ながら、今の彼女を探した。
「…あいつ……」
 今更ながら思い出す。そう、彼女は“あの場所”へ残してきたのだった。誰の所為でもない、自分の未熟さの所為で彼女は残らざるを得なかったのだ。
 ぐっと拳を握る。彼女の白い背中が夢の中の幼い彼女のそれと重なる。今、彼女は何をしているだろうか。負傷していないだろうか。苦しんでいないだろうか。迷子になっていないだろうか。―――心配、してしまう。が、慌てて弱い気持ちを振り払ってローは自室を後にする。向かう先は食堂だ。
「どうなってる」
 食堂にはクルーの殆どが集まっていた。ジャンバールは舵を取っているためここには居なかったが、それでも今やるべき仕事が無い者はじっとしていられないという顔つきで、一つのテーブルを囲んでいた。キャプテン!とベポが嬉しそうに手を振って、自分をこちらに来るように促す。
「先程アシカが電伝虫をハッキングして情報を集めました」
 ペンギンの一言にローは少なからず驚いた。アシカに視線をやると、彼はばつが悪そうな顔をした。「…別に、あの子のこと認めてないわけじゃなか」小さく言って、アシカは俯く。
「…情報が正しければ、海軍はもうシャボンディ諸島には居ないかと」
「帰ったのか」
「おそらく。……それからあの時、黄猿も上陸していたそうです」
 その名に目を細める。バーソロミュー・くまもどきだけでなく奴まで居たとは。思わず溜息をついて、ローは腕を組んだ。
「もう一度上陸する。いいな」
「勿論ですッ!」
 誰よりも早くシャチが答える。それを皮切りに他のクルーもそうだそうだと同意した。
 物騒で、幻妖で、異様で、独特で、奇々怪々な女・マオ。だが、そんな彼女だからこそ自分は手許に置いた。最初は畏怖と興味があったから。しかしそれは変化し、本気で怒り、悩み、悔やみ、最終的に彼女を興がるようになった。何故なら、仲間だから。
「…よし、ジャンバールに伝えろ。すぐに浮上しろと」
「はい!」
 どれだけ心労に響いても、ベポやシャチと戯れるマオを見ていたら、その疲労さえも馬鹿馬鹿しくなった。物事を理解していく彼女を見ていたら嬉しくなった。あの時、ベポに叱られた彼女は狂人ではなく、幼い子供だった。それを思い出し、ローはふと笑う。
「キャプテン?どうしたの?」
「…いや、あのアホ、もう少し躾が必要だと思ってな」
「??」
 馬鹿で阿呆で奇妙で恐ろしいマオ。しかし彼女は誰になんと言われようとも、ハートの海賊団のクルーだった。