さて、脱獄を決意したマオは早速扉を蹴破った。あまりにもあっさり破壊されたそれに、少々驚く。こんなにも容易く開いてしまうなど、あまりにも無防備ではないか。警備態勢は一体どうなっているのだ。敵方ながら心配してしまう。
 ともあれ向こうが余裕綽々なら構わない。その怠慢に有り難く漬け込ませてもらうことにする。
 部屋から脱出したマオがまずすべきことは殺気石の破壊、或いは解除だ。これのおかげで力が使えないのだ。こんな状態で襲われたら流石のマオも手こずる。せめて斬魄刀があればまだマシというやつなのだが。
「キシッ。これが本部?」
 それにしても周囲の様子が随分物々しい。ドフラミンゴはここは海軍本拠だと宣っていたが、本当は違うのではないだろうか。本拠というのなら、こんなに不気味で薄暗くない。まるで牢獄のような場所だ。情報の錯乱を狙い、嘘を教えたのだろうか。いや、それにしては雑すぎる。――まあ、マオの現在の身の上を鑑みればたとえここが本当に本拠だとしても牢獄と変わりないが。そんな自虐を込め、金の瞳をギョロリと向ける。敵の気配はなかった。
 やはり、おかしい。まるでわざと脱獄させたかのような状況だ。このまま動くべきか逡巡したその瞬間、ある気配を捉えて身を引いた。
 ――ドゴォオオオッ。
 思わず耳を塞いだ。
 土煙でよく見えないが、おそらく壁が破壊されたのだろう。その中で何人かの気配を感じ取れた。敵か。