クロコダイルの肩に乗って外へ出たマオが目にしたのは、船が一隻もない水平線だった。
「逃げられたネ」
「…まあ、普通はそうするだろうよ」
 特に驚いた様子もないクロコダイル。
「で、どうすんだ」
 ジンベエに訊ねると、彼は分かり切った顔で門の片方を腕力のみで外した。それをいかだ代わりにして船を奪いに行く算段のようだ。面白そう、とマオの胸は高鳴る。いかだに乗る人員はクロコダイルにMr.1、マオ、そして何故かバギーとなった。
 船付近まで辿り着くとそこからは砲弾の嵐となったが、ジンベエの機転によりある一隻に乗り込むことに成功。船員全員を蹴散らすことができた。
「あっ、なんかデカい顔が近づいてるヨ」
「あいつ死んでなかったのか。しぶといな」
 どういうわけか顔が肥大化しているイワンコフが目立つが、取り残されていたルフィや囚人たち含めて皆が海に飛び出した。ジンベエザメの群れに助けられながらも彼らは乗船する。
「ねえねえ」
 マオはジンベエに話しかけた。
「門はどうやって開ける?ぶっ壊す?」
「その必要はない」
「えっ?」
 ルフィの驚きの声と同時に開門の音が聞こえた。これには海軍側も動揺を隠せなかったらしく、攻撃の手が止む。「どういうこと?」重ねて質問すれば、ジンベエが沈痛な面持ちをして理由を口にした。
「ボンちゃんが!?」
 あのオカマの囚人ボン・クレーがたった一人、インペルダウンに残って開門の操作をしてくれているらしい。
 ――船を奪取した一同は海軍本部へ向けて出航する。ただ一人、ボン・クレーを見捨てて。
 彼を犠牲にして脱出するルフィは、泣いていた。
 既視感。

『必ず…必ず帰ってこい!必ずだぞ!嘘ついたら許さねえからな!!』

 あの叫びが随分懐かしく感じる。
「……、」
「どうした?」
 マオの変化に気づいたクロコダイルが不思議そうに訊ねる。整えられた彼の髪を掴めばやめろとばかりに叩かれたが、気にすることなく掴んで口を開く。
「…やつがれの帰る場所はあそこじゃないけど、みんな待ってるから行かなきゃ」
「そこがお前の居場所じゃないのにか?」
「いつかは本当のところに帰らなきゃ。でも、それは今日じゃない」
「お前意外と面倒くせえ奴だな」
「律儀って言えヨ」
 口をすぼめて答えればクロコダイルは少しだけ笑った。珍しく皮肉の乗っていないそれだった。
「おら、もうすぐ戦場だぞ」
「やつがれもたまには運動しなきゃなー」
 にやりと口角を上げ、マオは斬魄刀の鯉口を切った。