そんなに多くもないが、決して少なくもない人数が甲板に押し寄せて来ていた。名も通っていない海賊らしいが全員武器を所持している。この人数を女の子であるマオが相手をするなんてと、ベポは不安に駆られた。しかしながらそんな彼の不安を露ほども知らないマオは、呑気に唇を三日月にして敵を静観している。
 行け、とローは促す。殺せば良いのかとマオが問えば、どちらでも良いという言葉が返ってきた。とにかく船から追い出せれば良いらしい。
 んー、とマオは音にならない声を出してゆらりと抜刀する。
「っぁ…あ、あ゛ああ゛!?」
 突然の痛ましい悲鳴。驚いて一同は声の主を見ると、敵である海賊の男の左目から血が噴き出していた。目を、抉られたのだ。
「あげる」
 マオは、ずい、と目玉をローに突き出す。ローは表情を変えずに言い放った。「いらねえよ」
 ちえー、ザンネン。別段残念がっていないような声音でマオは血だらけの目玉を掌の上で転がす。そのまま目玉はコロコロと転がり、甲板に落ちた。血糸が掌から垂れる。
「ひ、ぎゥ…っ俺の目がぁぁ!!」
 手を伸ばして、男は自分の目玉を取ろうとする。男の瞳はジッと男を見つめていた。
 マオはそんな彼に見せしめとばかりにガッ!と目玉に刀を突き刺す。目玉は綺麗に真っ二つに分断され、片割れは海に落ちた。
「お、俺の目えぇええ…」
「…キシッ」
 マオは絶望する男のうなじに、目玉の時と同じように刀を突き刺した。声をあげる余裕さえ無く男は息絶える。
 それからは流れ作業のように淡々と事は進んだ。マオはスキップするような軽やかな動きで敵を斬ってゆく。逃げる隙を与えず、かといって抵抗する余裕さえ無く息絶える者たち。動かない敵を踏み血糸を舞わせるマオは、なんとなくマリオネットを連想させた。別に操られているわけではないのだが、どういうわけか強要されているような、そうしなければいけないような固さがあった。他の船員には分からずとも、少なくともローには彼女がそう窺えた。
「…もういい」
 既に息絶えた者を執拗にザクザクと刺しているマオに、ローは静かに伝える。少し間を置いて漸くマオは動きを止めた。
 「決まりだな」ローは独り言のように呟くとベポに後は任せたと伝え、踵を返した。