「はぇ…?」
「…なに情けねえ声出してやがる」
 霞んだ視界に派手は桃色はない。見えるのは、ふわふわの白い帽子に男の横顔。己の腰にはその男の腕。抱かれているという状態であることを穿点で痺れた頭で認識するには、時間を要した。
「マオ」
 状況把握もままならなかったが、存外優しく呼ばれて焦点を合わせる。
「…悪い、遅くなった」
 ローの、僅かに怒りを滲ませた声。怒りの矛先はマオに向けてではない。ドフラミンゴか――おそらく、ロー自身に対してだろう。
「べつに、やつがれ一人でも、…なんとか、したから…」
「そんだけ口が回りゃ大丈夫そうだな」
 痩せ我慢は気づいているのだろうが、彼は敢えて軽口を叩いていた。
「麦藁屋を寄越せ!俺は医者だ!」
 大方不要な戦闘はせずに逃げ果せるつもりなのだろう。確かにそのほうが得策だ。
「ろぉ」
 しかし気がかりが一つある。
「えーす」
「…!」
「ついでにえーす、助けたげて」
 恩を着せてやると宣えば、ローは薄く笑ってしょうがねえなと呟いた。
 のちにバギーからルフィとエース、また重症だったジンベエが譲渡され、彼らをベポたちが医務室に運び入れた。肝心の主治医のローはマオを抱えたままある一点を見つめていた。
 ドフラミンゴだ。
 二人に何かしらの因縁があることはドフラミンゴから聞かされていたが、視線だけで殺せそうなほどの目を向けるローは珍しい。こちらが想像できないほどの何かが、二人にはあったのだろう。それを窺い知るすべはない。突っ込んでもいいものか一考し、結局自分らしくもないと内心失笑してからローを呼んだ。
「入んなくていいノ?」
「…そうだな」
 視線はそのまま、ローは同意する。ピリピリした殺気を纏った彼を乗せたまま、船は潜水した。
「三人ともひでえ傷だな」
「そこそこ派手な祭りだったからネ」
「お前も人のこと言えねえけどな」
「…やつがれは穿点の所為だし」
 あ?がてん?とローは興味を持ったようだっだか、すぐさま患者に意識が戻った。
「マオ、お前は…」
「やつがれこの程度なんてことないシ。さっさと麦わらたち診なヨ」
「……アシカ」
 とっとと退室しようとするマオを引き留め、ローはアシカを呼んだ。何を命令されるのか分かっていたのか彼は救急箱を携えたまま駆け寄ってきた。
「別室でこいつの手当てを」
「はいっ!」