翌日のことである。朝の日差しが眩しい中、黄色の潜水艦は浮上していた。甲板には外見も中身も濃い面子が集結している。
元七武海メンバーのジンベエに、インぺルダウンに潜伏していたイワンコフ。そして現七武海の一員であるボア・ハンコック。錚々たる面々だ。
彼らが話す内容は専ら麦わらのルフィであった。容態や予測される起きてからの精神状態。また兄のこと。今後の活動について。正直なところ怪我を除く起床後の動向についてはローの預かり知らぬところだったが、これも縁ということで話し合いに参加してやった。
「ところで、マオガールはあなたの仲間なのよね?」
唐突な話題の切り替えに虚を衝かれたが、イワンコフの発言に頷く。ハンコックが「何?誰なのじゃ?ルフィに仇なす奴か?」と喚いていたが無視する。
「ヴァナタ、マオガールについてはどこまで知ってるの?」
「…それは……どういう意味だ」
“死神”について、ということなのか。
「気をつけなさい」
先程とは打って変わって真面目な雰囲気を纏うイワンコフ。流石、あのインペルダウンから抜け出してきた実力者だ。敵に回したくないなと思いながら彼の次の言葉を待つ。
「ドフラミンゴはあの子の力を狙ってるわよ」
身構えていたとはいえ、非常に不愉快な発言であった。
「あの子、死神なんでしょ」
「…!」
「死神なら、異訪人ということになるわ」
「テメェ…どこまで知ってやがる」
思わず警戒すれば「勘違いしないで」と窘められた。
「別にマオガールをどうこうしたいなんて思ってないわ。ただ、忠告してあげる」
「……」
「ヴァターシは以前、ある一人の死神に出会ったことがある。でも先日その死神が殺されたという報せを受けたわ。犯人は恐らく、ドフラミンゴ」
内臓を掴まれたような錯覚をした。
「力のある者――特に、権力者は求めてるわ、死神を。ドフラミンゴもその内の一人なのね。珍しくて便利なものが欲しいのよ。殺された死神はドフラミンゴの意にそぐわなかったのね……でもマオガールは違う。あの子は面白いし、手元に置いておきたい愛嬌があるものね」
ヴァナタもそういうタイプなんでしょ、と問われたがそれには答えなかった。自分にそんな道楽的な感情があるとは思えなかったし――なにより、ドフラミンゴと同類であることを認めたくなかった。
「あの子を失いたくないのなら必死に捕まえておきなさい」
「…部外者に言われなくとも分かってる」
彼女の足首には己のものだという証がある。分かりやすい、しるしが。
「あいつはハートの海賊団のクルーだ」
“死神”という存在について、何も知らない。マオ自身から何も教えてもらっていない。だが、彼女が仲間であることはよく知っていた。身を呈して護る価値があることを、ロー自身がよく分かっていた。
失うわけにはいかない。
「……どういう結末を迎えても良い覚悟があるのなら、ヴァターシは何も言わないわ」
「悲劇的な最後しかないような言い方だな」
「生き物っていうのはね、不思議なことに最後は在るべきところに行き着くものなの」
イワンコフの言い方には違和感があった。だってそれはまるで―――。
「はいっ!重たい話はここまで!」
「…あ?」
「じゃ、後は任せるわ」
「は!?」
突然の解散宣言に呆然としていると、三人はさっさと甲板から降りていってしまった。ただ一人取り残されたローは暫し呆気にとられていた。しかし、直前に話した会話の内容が頭に思い浮かぶ。
「“死神”…か」
全ての原因はそれだ。死神について知識が足りない。気は進まないがマオに問いただす必要があった。嫌な役回りだなと空を仰ぐが、爽やかな青空だけがこちらを見下ろすばかりである。あの体温のない金の左眼を思い出して、ローの気持ちはひどく沈んだ。