エースが目覚めたのはそれからすぐ後のことだった。傷の痛みを訊ねても無反応で、暫くは茫然自失状態だった。
「…親父…は………?」
「白ひげは死んだ」
 ローは淡々と事実を告げた。背後にいるマオは暇そうに手術道具を弄っている。カチカチという、器具同士が擦れる音が会話の合間に響いた。冷ややかなそれはエースの今の感情を的確に表現しているように思えた。
「………っ、んで」
「あ?」
「何で俺を助けたッ!?」
「俺は医者だからだとしか言えねえが……根本的な理由が欲しいなら麦藁屋かこいつに訊け」
 大して親しくもない者の喚きに付き合う気にもなれないのでマオに丸投げする。
「何でやつがれに言うんだヨ」
「元はお前が原因みたいなもんだろ」
「え〜」
「マオッ!!」
 今にも噛みつかんばかりの勢いのエースなど諸共せず、相変わらずのふざけた態度でマオは彼と対面する。
「エースは死にたかったんだ?」
「親父を助けられなかった時点で俺が生きてる意味なんてねえ!!」
「フーン」
 すると何を思ったのかマオはエースをベッドから引きずり下ろした。大きな音を立てて地面に横たわる彼は、呻き声を上げて体を丸める。包帯が赤く染まっていた。しかしマオはそんなこと些末だと言わんばかりに彼の首根っこを掴み、乱暴な扱いのまま部屋を出ていく。
「マオ」
 仮にも主治医なため言葉だけは制止をかけておくが、無論その程度で彼女は止まらない。
 マオはルフィの部屋の扉を開けた。
「オーイ麦わらァ」
「マオ?に…エース!?」
 部屋にはベッドで安静中のルフィだけでなくベポやシャチもいた。重症のエースを引きずってやった来たマオに対し、皆ギョッとした顔つきで硬直している。だがベポたちはマオの背後にローがいるということもあり、その凶行を止めようとはしなかった。
「こいつ殺すヨ」
「………は…………?」
 唐突な一言に、全員が間の抜けた顔をした。「どういう意味だ…?」ルフィの声が震えている。
「エース、生きたくないんだって。だからやつがれが殺してあげるヨ」
「なっ……!」
「エースは望み通り死ねるしやつがれがあげた死神の力はやつがれに戻るし、万々歳じゃん?」
 ――死神の力?
 予期せぬ言葉にローは密かに眉根を寄せる。
「マオ!俺はただ…!」
「オマエが生きててほしいって願っててもエースはどうでもいいんだって。残念だネ、麦わら」
 刀を抜くマオに対し必死に手を伸ばすルフィ。エースは硬直したまま動かない。シャチが良いのかと目で問うてきたが、ローは黙っていろと制した。
 マオは白刃を振り下ろした。