「は?捜索願い?」
 久しぶりに頓狂な声を出した。
 たまたま役場に入っていったベポを追えば、何故かシャチまで連れてそこを出てきた一人と一匹。丁度ドアの目の前で邂逅したため何をしていたかと問えば、シャチは黙って紙を差し出してきたのである。
「……あいつを捜す奴なんて限られてるだろ」
「そうッスよねえ」
 シャチがやっぱり何かの間違いかな、と呟いたがそういうことを言っているわけではない。
 殆どのクルーたちには伏せているがマオは死神と呼ばれるこの世界にとっては謎の存在だ。彼女を欲しいと思う人間がいても不思議ではない。ただ、少し引っかかるのだ。
「それにしてもこういう捜し方するなんて珍しいよね」
「あー確かに」
 ローが気になっているのはそこだ。少なくとも人攫いだといった怪しい仕事を生業とする者の仕業ではない。ああいう輩はこんな堂々と誰それを捜しているなどと宣わないし、役場なんて利用しない。
「まあ害がねえなら別にいい。放っておけ」
「えーっ。マジで無視するんですか?」
「またマオがいなくなったらどうするの、キャプテン」
「お前らな……」
 どうやら随分過保護になっているらしい。面倒な奴らである。
「そう駄々捏ねる割にあの馬鹿がいねえじゃねえか。おいシャチ」
「うっ…」
「また見失ったな?」
「……はい」
 すみませんと素直に謝るシャチ。
「まあ良い。ペンギンが見つけたからな」
「は!?ちょっ…酷いッスよキャプテン!試したんですね!?」
「うるせえ」
 ぎゃあぎゃあと喚くシャチを無視して踵を返す。
 途中で見つけた花畑でワッフルを食べるとペンギンがほざいていたし、どうせ今頃それを食べているだろう。彼女を連れてさっさと帰ろう。
 花畑はこの島の観光地の一つであるらしく、森の中だというのに親切に案内板が一定の距離で立っていた。早足で進んで行けば段々花の香りが鼻腔を擽ってきた。
「わ、すげ」
「花の匂いすごいね…」
 感嘆するシャチとは違いベポは少し顔をしかめている。人間にとっては心地よい香りでも熊からすればきついものらしい。
 青空に反射するような色とりどりの景色。その中心に、彼女らはいた。いつも通りのツナギのペンギンはともかく、フリルのついたゴスロリを着て嬉しそうにワッフルを頬張るマオ。彼女は誰がどう見ても可愛らしい女の子であり、花畑で座っている様はまさしく妖精さんだった。
「………マオってさ……可愛い、よな…」
「マオは可愛いよ?」
 感慨深いシャチに何を当たり前なことを言っているんだとばかりに同意するベポ。ベポが人間だったら間違いなくモテているだろうなと思いながら「おいそろそろ帰るぞ」と二人の世界に入っていたマオとペンギンに声をかける。
「ええ〜もう帰るの〜?」
 案の定駄々を捏ねるマオ。
「またどっかフラつかれたら面倒だ」
「あの目の下クマ野郎はやつがれを何だと思ってるんだかネ」
「おいそりゃ俺のこと言ってんのか」
 本当に見た目と大違いの性格だ。溜息をついて踵を返す。さっさと行くぞと最後に声をかけてやれば渋々ながら立ち上がる気配がした。
 漸く黙ってついて来たかと思っていれば、シャチとベポが捜索願いについてマオに話した。マオは始終興味なさげに聞いていた。
「お前自分のことだぞ。何でそんな普通にしてんだよ…」
「こんなので探そうなんてイイ度胸してるネとしか言えないネ」
「それにしてもどういう理由で探してるんだろうな」
「そう!ペンギンそう!俺はそれを聞きたかった!」
 そんなのここでとやかく議論したところで意味はないだろうと内心で考えていればマオが「それここで話して分かることなノ?」と嘲笑混じりに呟いた。心情の一致に思わずちらりと彼女を一瞥する。
「マオつめてー……風邪引きそうだぜ」
「ナニソレ。どういう意味?」
 軽口を叩き合いながら船まで到着すれば一人のクルーがこちらに駆けてきた。聞けばどうやらエースが話したいことがあるとのこと。しかも、マオに。一体何の話なのか……ローにはなんとなく想像がついた。
「どうするんだ」
「えー…やつがれはどっちでも…」
「じゃあ話しとけ」
 そう勧めてやれば彼女は珍しく瞠目していた。
「……何だ」
「いや〜ローって結構情に流されるンだな〜って。キシッ」
「…せめて情に厚い・・と言え」
 馬鹿なこと言ってないでさっさと行ってこいと背中を押せば、そのまま跳ねる勢いでマオは部屋に入っていった。
「話って何なんスかね」
「くだらねえ」
「キャプテン?」