「まあそういうわけで戦いを教えることになったヨ」
「どういうこと!?」
 話し合いが終わったとのことで帰ってきたマオからの第一声は意味不明だった。何がそういうわけだ。キャプテンの己に何の相談もなく決めてしまうとは。彼女らしいと言えばそうなのだが、言葉にできないもやがローの中に燻った。
「俺を通さずに何勝手に頼んでんだ」
「あー…いや、済まねえ」
 体調が回復したエースはおそるおそるながらマオと一緒に食堂に顔を出した。前回の騒動を気にしているらしい。案外繊細のようだ。
「酒は駄目だぞ」
「ちぇ…」
 つまらなさそうに目の前のコーヒーを睨めつけながらも手を出すエース。気に食わないのなら飲まなければ良いのに。
「麦藁屋には話したのか」
「ああ。悪魔の実の能力が失くなってることも話した」
「……何も言われなかったのか」
「まあな」
 ただ生きていてくれて良かった――それだけだったらしい。
 ―――生きてさえいれば、か……。
 あまり好きではない言葉だ。
 ローの些細な変化に気づいたのかエースがどうしたと訊ねる。わざわざ教える必要はないので、ローはかぶりを振った。
「……あまりあいつに負担をかけるな」
 次いで出た言葉に、エースが僅かに目を見張る。まさかお前からそんな言葉が出てくるとは……そう、目が物語っている。うるさい視線にうんざりしながらもローは続ける。
「よく分からねえがあいつにストーカーもどきがついてる。今はそれに集中したい」
「ストーカー?確かにまあ……マオは可愛いけど…ストーカーしたくなるかどうかは…結構微妙じゃね?」
「お前あいつのこと気に入ってるのに言うじゃねえか」
 とはいえゴスロリを着て刀を振り回す彼女は、確かにつけ回したいか否かで言えばお察しだ。
「にしてもあいつをストーカーって…どんだけ度胸あるんだよ。つか何で分かったんだ?接触した?」
「捜索願いが出てた」
「ハァ?」
 素っ頓狂な声だがそれを馬鹿にはできない。現にローも思わずそれが出そうになったのだから。
 どういう意味だと彼は無言で問うてきたので仕方なく口を開く。
「この島でウチのクルーが偶然捜索願いの紙が貼られてたのを見つけた。それだけだ。役所の人間曰くそれを貼ったのは若い女らしい」
「若い女、ねえ……」
「俺が知る限りマオの知り合いにそんな奴はいねえ」
「別にあいつの知り合いじゃなくても、どっかの島でたまたま会って、どうしてもマオに再会したいとかそういうのもあるじゃねえの?」
 不埒な者を使わず捜索願いという慎ましい紙切れを貼っていくのだ、健気な人柄がイメージできた。
 ―――たまたま会って、か。
 そういうことであればゴスロリを買った店の店主が思い浮かんだが、あれは老婆だ。若い女ではない。マオが接触した中で若い女といえばただの市場の果物売り場や酒屋などしか――。
「――いる」
「え?」
「マオを知ってる奴が、いる」
 おそらくローよりも早くマオという死神の存在に気がつき、接触を図った人物。
 ドフラミンゴの手足になりマオを嵌め、結局は自らローに助けを請うた、あの幼い少女だ。