「ええっあの女の子!?」
 ベポの驚きの声が食堂に響く。シャチがそれにうるさいと言ってから、本当ですかとローに訊ねた。
「確証なんてねえよ。ただこいつを知ってる…しかも用事がある若い女ってのがそいつ以外に思い浮かばなかった」
「な、成程…」
 つまりは当てずっぽうなのだが他に意見のないらしいシャチは理解したようであった。
 ローは隣に座るマオを見る。渦中の人物だというのに呑気にお茶を飲んでいる。肝が座っているのか何なのか。相変わらず締まらない彼女に溜息をつきたくなった。
「お前あいつと知り合いだったのか?」
「マサカァ」
 知ってたら最初から言ってると吐き捨て、マオは茶菓子をつまむ。
「…知り合いでもないのに何でマオを探してるのかな」
「どうするんスか、キャプテン」
 マオの顔写真の下には連絡先が記載されている。目撃情報があればここに連絡してくれということなのだろう。ご丁寧にそんなことを書いているのであれば、素直に接触を図って用件を聞き出すのも一つの手だが――。
「放っておく」
「まあ……そうなるッスよねえ」
「目的も分からん奴に一々連絡を取る必要なんかねえからな」
 ですよねー、とベポとシャチが納得したところで「にしてもさぁ」とここでマオが自分から口を開く。
「そのオンナを見たヤツは他に何か聞いてなかったノ?」
「いやそんなの俺に言われても…」
「ちゃんと調べとけよナー」
「いやだから俺に………あ」
 何か思い出したのか静止するシャチ。早く言えと促せばそういえばと少し言葉を濁しながら彼は続けた。
「いやなんか、その女の子、その後電伝虫で誰かと話してたらしいんですよ」
 一旦言葉を区切り、シャチはココアで舌を湿らせる。
「……んで、なんか変な単語いっぱい出てきて印象的だったって言ってました」
 「変な単語ってどんな?」ローが訊ねる前にベポが訊く。「えぇ……俺もそんな覚えてねえよ」シャチは困ったように肩を竦めた。
「あ、でもなんか来た…思い出しそう」
「さっさとしろ」
「えーっと…なんかガルガルタ?を開けるだの何だのっていう話だったような…」

「――はぁ?」

 不可解と、どこか怒りを混ぜたような奇妙な声が響いた。声の主であるマオが、興味なげに茶菓子をつまむのを止めて眉をひそめてシャチを睨めつけている。
「ホントにそう言ってたわけ?」
「お、俺は知らねえよ…」
 怒られている気分になったのか、シャチの声が震える。
「どうしたのマオ。ガルガルタ知ってるの?」
 ベポの言葉にさえ反応を示さず、マオは無言で立ち上がると食堂から出て行ってしまった。ガルガルタという単語に聞き覚えがないので、ローはすぐさま死神に関係する何かなのだろうと思い至った。