数日後。とある島で物資調達を行う中、奇妙なことが起こっていた。
「だァ―――ッ!!お前もうちょい手加減しろよ!!」
「手加減なんかしたら死ぬヨ」
「逆だろ!?手加減しねぇから死ぬんだよ!」
「うるさいネ。一回死んだ身なんだからもう一回くらいいけるだロ」
「何が!?」
 マオとエースが小さな丘のところで鍛錬をしていた。火の玉や雷が時折光っている。おそらく鬼道という技を教えているのだろう。
 ――いや、教えてるっつーかマオが一方的に攻撃してるだけにしか見えん。
 ローは暫しの間木にもたれて虐められているエースを眺めた。
「はぁ…はぁ…おいマオ、こんなので本当にその鬼道ってやつができるようになるのかよ。お前全然やり方教えてくれねえし」
「やり方?」
「何かあんだろ。力をこう、どんな感じに溜めるかとか」
「ナニソレやつがれ知らない」
「お前マジでふざけんなよ!!」
 どうやらまったく話にならないらしい。溜息を一つこぼして、ローは木から背を離す。
「いつまでやってんだお前ら」
「ん?なんだよロー、いたのかよ」
「馴れ馴れしく呼んでんじゃねえぞ火拳屋」
 まるで麦藁のようだと呟き、そろそろ帰るぞとマオに声をかける。
「そうだネ。お腹すいたし」
「えっ…俺の修行は!?」
「キューケー、キューケー」
 背後でギャンギャン喚いているエースを置いて二人で丘を下りる。マオは相変わらずフラフラした歩き方でローの前を歩いていた。「で?」前を向いたまま彼女は口を開く。
「なんかやつがれに言いたいことがあったんデショ」
「…ああ」
 いくつか訊きたいことはあるがまず最初はこれだ。
「お前片眼見えてねえだろ」
 遂にマオの足が止まった。こちらを振り返ったその顔は笑みを貼り付けて硬直していた。
「よく分かったネ」
「馬鹿にしてんのか。こっちは医者だぞ」
「別にバカになんかしてないし」
 そう言うと彼女は見えていないほうの眼――左眼だ――の下をポリポリと掻いた。
「つかこれそもそもホンモノのメじゃないしネ」
「あまりに精巧で俺も最初は気づかなかった」
「ここに来た時はちゃんと見えてたヨ」
「は?」
 どういう意味だと訝しめば彼女は淡々と「なんか壊れたっぽい」と述べた。
「お前、それじゃあ……」
「ンー……修理できたらベンリだけど無理そうだしなァ。まあこのままでも戦えるヨ」
「……。それ、誰に作ってもらったんだ」
 マオは一瞬閉口した。
「ナカマ」
 それは、ひどく言いづらそうな声だった。しかし確かに彼女はそう言った。ローには顔も想像つかない製作者に対して、認めているかのように彼女は言ったのだ。
 瞬間、言葉にできぬ不安が、ローの胸の内に広がった。

『えーっと…なんかガルガルタ?を開けるだの何だのっていう話だったような…』
『――はぁ?』

 あの時の会話が蘇る。
「マオ、お前」
 殆ど直感的に、口にはしまいと誓っていた言葉が突いた。
「お前、帰りたいのか」
 マオから笑みが消えた。