――『ガルガルタじゃなくて黒腔ガルガンタだヨ』
 マオは、そう言った。
 ドフラミンゴに使役されていた少女が何者なのかは知らないが、とにかくその単語は尸魂界と現世、虚圏を繋ぐ穴を指している。通常死神がその穴を開くことは不可能であり、虚と呼ばれる者たちのみが使用することができる――らしい。
「移動できる穴…普通に考えれば帰り道、だけどオンナに接近して感じた印象はただの魂魄……って感じだったけどなァ」
「お前と同じ死神じゃねえのか」
「キシッ。そうだネ」
 移動手段として用いられる穴。そしてマオを探すという行為。
「つまり、あのガキはお前を連れて帰りたいってことか」
「……そこまでは知らないヨ」
 だが十中八九そうなのだろう。それ以外に考えられない。
 何故だろう――いや、問題はそこではない。本当の問題は、マオが帰りたがっている(かもしれない)という点だ。本来なら帰すべきなのだろう。だが、マオはもうハートの海賊団の一員だ。証のタトゥーだって彫ってある。
 ローのプライドが、マオを帰すなんて許さない。
「おーいマオー!お前いつまで休憩してんだよ!」
「ウルサイなぁ。破道の四、白雷」
「どぅぁああああ!!!?ちょっお前そりゃねーだろ!!」
「ほら、ガンバレガンバレ」
 エースに向かって容赦なく連続で白雷を放つマオの横顔を眺め、ローは深い溜息をついた。
 ――こんなことになるなら最初から拾わなきゃよかった。
 そんな想いなど露知らず、彼女は呑気に笑い続けていた。