“少女”には、赤い帯が見えた。力の有無を示す赤い帯が。それを追って、かつては同胞を探したものだ。そして遂に見つけ出し、死神の女を己の生活費の為に売った。しかしそれが過ちであることに気づき、女の仲間に助けを求めた。結果的にヒューマンショップから助け出された女は仲間と共に少女の元から去った。それから行方は知らない。
 そこで二人の関係は途絶えた筈だった。
 しかし終わってなどいなかった。
 少女の胸の内には、黒いもやが燻っていた。それは死神と出会い大きくなり、別れてからも大きくなり続けた。
 帰りたいという気持ちが、明確になっていったのだ。
 放浪した。当てもなく彷徨い続け、歩き、歩き、歩き、歩き、歩き――やがて辿り着いた。
 偶然の出会いだった。偶然、黒い穴を開ける者と遭遇し、帰る算段がついてしまったのだ。
「あたし、あのおねえちゃんを連れていきたい」
 その時そう思ってしまった。罪滅ぼしなのかどうか本当のところは知らないが、とにかく最初に思い浮かんだのは死神――マオの顔だった。
 少女はマオを捜し続けた。様々な手段を講じ彼女を捜し続けた。
 そして遂に、再会を果たそうとしていた。


 某島。エースの修行は滞っていた。
「オマエ全然ダメ。諦めろヨ」
「ひでえ!!!」
 ゴスロリの裾を指先でいじりながら冷たく述べたマオの背からは、もう飽きたという空気が漂っている。服装からしてやる気が感じられない。
「ロー!ごはん〜」
「俺はメシじゃねえ」
 飯で思い出すのは麦わらのルフィだ。
 彼はローが完治を認めてからすぐに旅立った。それまで色々と兄弟で話し合ったらしいが内容までは知らない。盗み聞きは野暮だった。ドアに耳をくっつけていたマオを引きずって、彼らが満足いくまで待っていた。彼らが互いに納得して別離の道を取ったのはマオがエースを殺そうとした一週間後のことだった。
 ルフィがハートの海賊団――ひいてはエースから離れてからというもの、彼の消息は完全に途絶えていた。白ひげが死亡し、残りの白ひげ海賊団たちの行方もはっきりとはせず、エースは焦っているのだろう。だからこんなにもマオを急かし修行の毎日を送っている。
「やっぱアレだネ、エースアレだヨ」
「あ?」
「せんすがない」
 あっさり両断され力なく項垂れるエース。マオは彼の様子を一切気にした素振りなど見せず、呑気に昼食のおにぎりを頬張っている。相変わらず彼女の優先順位の上位にエースが来ることはない。若干憐みにも似た感情を抱いたローであったが、ここで口を出して面倒事に巻き込まれるのは御免であったため無言を貫く。
「お前もうちょっと俺に優しくても良くね?」
「修行に付き合ってやってるのにこれ以上どう優しくしろって?」
「あ、それ優しさに含まれてんだ…」
 そんな疲れ切った笑みを浮かべたエースに破顔したのは、追加のおにぎりを持ってきたシャチ。
「マオに期待しすぎんなよー」
「酷いネシャチ。三枚におろすヨ」
「こわっ」
「大体ネ、死ぬ気でやらなきゃ修行なんてモンは成功しないンだヨ。だからやつがれもツライけど殺す気で付き合ってやってるンだヨ。その辺のやつがれの優しさをもっと汲んで、文句の一つも言わず少しはマジメにやれヨ。蒼火墜」
「「ぎゃぁあああああ!?」」
「こらマオ!食事中に技出すな!船長も無関心貫かないで注意してくださいよ!!」
 騒がしくなったものである。ローは自分の皿を持って船に戻った。