ローが戻ってからもマオの理不尽な攻撃の手は止まなかった。というより、むしろ酷くなる一方であった。何故巻き込まれているんだろうと、シャチは避けながら真面目に考える。そもそも自分は攻撃される理由など何もないのだが。
「マオ!俺やられる理由ねーからイチぬーけ…」
「させるかぁ!!」
「がふっ!?」
 まさかのエースの邪魔が入った。
「なにすんだよ!!!!」
「オメーなに一人だけ逃げようとしてんだよ!」
「だって俺カンケーねーもん!!」
「ハァ!?俺を見捨てるのかよ!!」
「しょうがねえだろ?!」
「赤火砲」
「「マオいま俺ら話してるから!!」」
 迫る巨大な火の玉をぎりぎりのところで回避し、ついに膝をつく。そもそもシャチの戦闘力はそれほど高いというわけではない。こんな死の鬼ごっこに付き合わされるなんて冗談じゃなかった。しかも似たようなポジションの筈のペンギンは、どういうわけか呑気に椅子に座ってお茶を注いでいるではないか。しかもいつの間に来ていたのかベポは遠距離攻撃を続けるマオを膝の上に乗せておにぎりを頬張っている。色々納得できない。
 ここに俺の味方はいないのか――膝だけでなく首もがっくりと下がったその時、ふと攻撃の手が止まった。爆音はなくなったが名残りで反響音が耳の奥から聞こえてくる。
「はぁ、はぁ……マオ?」
 エースが不思議そうに彼女を呼ぶが、反応はない。
「……ア?」
 結局エースの呼びかけには応答せず、マオは不可解そうな声を上げて背後を振り返った。



 同刻。ローは自室にいた。これからの準備をしていたのだ。今後世界は混沌に満ちる。ただでさえ混沌としていたのに、だ。そしてある男と決着を着けねばならない。ハートの海賊団を立ち上げた意義を、果たさなければならない。呑気に修行を見るのも楽しかったがやらねばならないことは山ほどあった。
 そんな折だった。
 テーブルの上に置いてあったカップが、かたかたと揺れた。最初は船体が波に揺れただけかと思ったが、小さな間隔で起こる奇妙な揺れ具合に、整理しようと手に取った医学書をテーブルに置いた。
「…何だ?」
 腹の底をかき乱すようなおかしな揺らぎ。波の所為ではない。おそらく人為的に起こっている奇妙なそれ。そして、胸騒ぎ。
 大きな力が近づいてきているという、感覚。だがこれに近しいものをどこかで感じたことがあった。
「キャプテン、何かおかしなものが…」
「……」
「キャプテン?」
 アシカの声を手で制す。
 何か思い出せない。限りなくこれに近いものを、間近で接したことがあった筈なのだが。こちら側とは決定的に違うような、パキリとした見えない境界線が這っている感じ。違和感、ともいう。
 違和感――。
「……そうか」
「?」
 ――マオと初めて会った時の感覚だ。
 だが限りなく近いというだけであって死神の気配ではない。むしろこの感覚は初めてだ。
 とはいえそんなことはどうでもいい。
「キャっキャプテン!どこ行くんや!?」
「あいつらのとこだ!」