――ローが修行場へやって来る三分前ほど時間は遡る。突然攻撃を手を止め、ベポの膝から降りて一点を見つめ続けるマオ。
「おいどうしたんだよ!マオ!」
 シャチが呼んでも振り返らない。妙な行動だが、一先ず休憩できることに感謝し大きく息を吐く。しかし隣のエースはどういうわけか神妙な顔つきでマオと同じ方向を向いていた。
「おいエース、お前までどうしたんだよ」
「…いや、なんか……」
「?」
 その時だった。
 一瞬きだ。目蓋を上げ、開いたその瞬間、マオの目の前に人間がいた。
 誰も反応できなかった。
「マオッ!!!」
 エースの咄嗟の荒らげた声と、剣戟の音はほぼ同時だった。
 マオも不意を衝かれたようだったがなんとか反応できたらしい。瞬間的に抜刀してその奇妙な人間と対峙していた。あまりにも速い攻防に一瞬何が起こったのか分からなかった。そんなシャチなど露ほども視界に入っていないのか、二人の戦闘はあちこちに被害を撒き散らす。反射的に伏せればその頭上を雷撃が通り過ぎた。
「ベポ!キャプテン呼んでこい!!」
「アイアイペンギンッ!」
 ペンギンの指示により見た目にそぐわない機敏さで潜水艇に戻ってゆく。
 その間に、戦闘は一時止まった。
 漸く相手の姿がきちんと認識できた。性別は男。全体的に白い洋装で、短い髪。頬には仮面のようなものが着いている。手には刀。黒いゴスロリを着用しているマオとは正反対の印象だ。
「……成程、話に聞いていた通りだ」
 男は勝手に納得したように独り言を呟く。
「何だヨ、オマエ。いきなり失礼だネ」
「死神について話を聞いていたんだ。どの程度の実力なのか測っておきたかった」
「『測っておきたかった』…だァ?面白いことを言うネ。オマエの矮小な脳味噌でやつがれが測れると思ってるのか?」
「不遜な態度も話通りだ」
 男は再び刀を構える。だが先に仕掛けたのはマオのほうだった。瞬歩で一気に距離を詰め、大きく一振り。男は予想していたらしくあっさり受け止めた。トッ…、マオの白い指が刀身を沿う。
「破道の四、白雷」
「――!」
 男の肩に一筋の光が貫通する。一拍置いて赤い血が白い服を汚す。すると間髪容れずに男がマオに向かって手を突き出した。
虚閃セロ
 眩い赤の光線が視界を覆った。劈くような爆音が周囲に轟き酷い耳鳴りが襲う。
「マオ!おいマオ!大丈夫か!?」
 シャチはマオの安否を確認しようとするが土煙や耳鳴りが邪魔をする。
「この程度か?しにが――」
 男の背後から突然一閃。不意打ちを食らって男は顔を歪ませた。
「キシッ……この程度か?――破面アランカル
 聞き慣れない単語を紡ぎ、マオは笑った。