戦いは激しさを増していた。互いに挑発し合った結果だ。なんて傍迷惑な奴らなんだとシャチは辟易する。当然シャチが間に割って入ることなんてできやしない。できることと言えば精々攻撃に巻き込まれないように頭を低くして草むらに隠れるぐらいだ。間抜けな姿だがこんなところで死ぬよりマシである。
「おいエース、お前何とかしろよ。同じ死神の力持ってんだろ」
「無茶言うなよ。まだ全然扱えてないんだから」
「……の割に、お前マオと一緒にあいつが来る方向見てたな。あいつが来るのを感じ取ってたんじゃねえの?」
 そう言えば彼は虚を衝かれた顔をした。
「まあ、なんとなくっていうか……変な感じがしたから」
「ふーん」
 マオと先程の男の一瞬の会話から察するに二人はお互いが何者であるか知っていたようだし、十中八九男はマオと同じ世界で生きてきた者なのだろう。故にマオに力を分け与えられたエースがその男の気配を察せたのも納得がいく。
 ――でも何でマオと同じ世界に住む奴がマオを襲うんだ?
 根本的な疑問がシャチの頭に過ぎる。彼らは仲間同士というわけではないのだろうか。
 そんなことをぼんやり考えていた所為で、不意を突かれて吹っ飛ばされたマオを顔面で受け止める羽目になってしまった。「ブブォッ」「チッ…ちゃんと避けろヨ」「おまっ人のこと言えんのかよ!」しかしよく見てみればマオは額から血を流していたため、それ以上の不満は消え去る。
 すると、その刹那。
 音も立てずに男が正面に迫ってきた。突然のことに体は固まる――が、マオが腹を蹴ってきたためシャチの体は吹き飛ばされた。
「「マオッ!!」」
 一番近くにいたエースが彼女に手を伸ばしていたがもう遅い。男の刀が容赦なく振り下ろされた。

 それを止めたのは、一振りの大刀。

「――ッ!」
「何だ…?何故急に……」
 男は突如として現れた大刀とその持ち主・ローの存在に当惑する。ハッとして視線を彼らから奥に向ければ、戻ってきていたペンギンとベポの傍にエースがわけが分からないといった顔つきでぼんやりしていた。どうやら“シャンブルズ”でローとエースの位置が入れ替わったようだ。
 絶対的存在の登場にシャチの緊張の糸が切れる。
「キャ、キャプテンんんんん…」
「……テメェ、何者だ?」
 一瞬シャチに目を向けたローであったがすぐさま男を睨めつける。
「ロー、邪魔すンなヨ」
「黙ってろ」
 強い口調でマオを窘めるロー。消耗しているのかマオは大人しく口を噤んだ。
「うちのクルーが世話になってるみたいだな」
「退け人間。お前に用はない」
「…、そういうわけにはいかねぇな」
 "ROOM"、とローが呟けば再びサークルが出現する。
 戦いが更に激化する予感がしたシャチは、彼の傍で座り込んでいるマオを回収しようと慌てて駆け出したところ――。
「ちょっと待ってください!!」
 という、唐突な少女の声に気を取られ転んだ。