「キャプテン!!」
シャチは出ていったローを追った。長身痩躯の背中からは何も窺えない。
「何で…何であんなこと言うんですかっ!」
「……」
「マオは仲間じゃないんですか!?クルーの証だって刻んだのに!あんなにあっさり突き放すことないじゃないですか!!」
「…シャチ」
諭すような声音。まるで仕方がないだろうとばかりのそれに、シャチの不満はますます募る。
最初は大変だった。彼女の感覚は常軌を逸していて、付き合うのに苦労した。だがふとした時に見せる自然な微笑みは可愛くて、ゴスロリもよく似合っていて、そして強くて頼りになった。シャボンディ諸島で別れてしまった時も、最終的には帰ってきてくれた。
それなのに。
今更か。今更、手を離すのか。
「キャプテンはマオのことなんてどうでもいいんだ」
ローは何も言わない。ただ黙って、背中でシャチの言葉を受け止めていた。沈黙が答えとばかりに。
色んな想いがない混ぜになる。もしかしたら船長は何か大きな考えがあるのかもしれない。だけどそれを察せられるほどシャチは頭が良くないし、なによりマオを見捨てたとも取れる発言により失望のほうが大きかった。
結局ローの言葉を待たずしてシャチはその場を立ち去った。
正直なところ、ローは迷っていた――。少女との突然の再会。破面との戦闘。マオの弱体化。人間と死神。この世界の者か、否か。あらゆる事象がマオとハートの海賊団を別離させようとしている。本来なら無理やりにでも引き留めているところだ。彼女は一度ハートの証を体に刻んでいる。それがある以上余程の理由がない限り下船は許さないし、ローは誰であろうと仲間を手放すつもりなど毛頭なかった。
だけど。
『キャプテンはマオのことなんてどうでもいいんだ』
シャチの心境は十二分に理解できる。彼女はかけがえのない仲間であり、これからもきっとそうだ。
しかし気づいてしまったのだ。
もし自分の妹が生きていたとして。そして、手違いでまったく知らないどこか遠いところで生きる羽目になったとして。紆余曲折あり彼女がその世界で仲間を作りつつも、家族や友人を恋しく思ったとして。反対に彼女を失った家族や友人も、彼女の安否を憂いていたとして。兄のローだって、妹が突然行方不明になったことにより心配したとして。毎日妹の無事を祈ったとして。
マオが
向こう側を思い出した時の表情から鑑みるに、彼女にもそういう存在がいるということを容易に察せた。
そしてその心境を想像した時、ローは素直に『帰るな』と言えなくなってしまった。
大切な誰かを失う痛みを、よく知っていたからだ。
マオがあの時思い浮かべた、義眼を造った“ナカマ”はどんな奴なんだろうと思いを馳せる。彼女によく似た性格の、付き合いが大変そうな奴なのだろうか。それとも彼女を窘める役のようなまともな性格なのだろうかと想像し――唐突に、夢で見た少年を思い出した。
あの時はただの夢だと思っていたが、幼少期のマオらしき人物もいたのでもしかしたらあれは本当にあった出来事なのかもしれない。根拠なんて何一つとしてないが、何故か漠然とそう感じた。
なにはともあれ今回の件に関してローは口を出さないと決めた。
全ての決定権は、マオにある。