翌々日のことだ。マオはエースを呼び出した。シャチとはあれから話していないが、ペンギンには自分の思いを打ち明けた。彼は仕方なさそうな笑みを浮かべたまま「マオが決断したことなら受け入れる」と述べた。
ローとは、あれから一度も顔を合わせていない。
「どうしたんだ、マオ」
エースはシャチほど取り乱してはいないものの、マオを見る目には不審感があった。何を言われるか分かったものじゃないと少しの腹立たしさも乗っているような気がした。
「最低限の鬼道ができるすべを叩き込む」
「は?」
「死ぬ気でやらないなら本気で殺すヨ」
エースはマオの突然のやる気に驚いているようだった。
「お、前…なんだよ、急に。今までやる気のやの字もなかったのに」
「やつがれは帰る」
唐突な告白に彼は石化する。しかしマオは構わなかった。
「帰る前に死神としての戦いの基礎を教える。あとは好きにしなヨ」
彼は暫く何も言わなかった。だが、やがて、ふっと肩の力を抜いた。顔も気の抜けた間抜けなものになっている。
「やっぱり帰るのかよ」
「予想してたんだネ」
「まあ、な……」
「頼まれたとはいえ火拳を見捨てただのエースを救ったのはやつがれ。戦うすべを教え込む責任があるネ」
「意外と真面目なんだな、お前」
そうしてエースは悲しそうに笑った。
「想像はこうだヨ。巨大…できるだけ
巨きい穴が良い。すごく黒くて、重くて、巨きい穴だ。そこに自分が飛び込む。そういう想像を持って霊力の流れを掴め」
それが明確にできれば、と言葉を区切る。
「うおっ!?」
「こうして霊力を具現化できる筈だネ」
青白い球体がマオの手の中にある。これが霊力である。鬼道ではなく、ただの力の集合体なだけなのでこれだけでは何の攻撃力もない。
「これを使い、攻撃や防御のすべを見出すのが鬼道だヨ」
「……」
「どンな技があるのかは処刑所でエースも見たネ。マァ、あンな感じサ」
「えぇえ…俺あんなバリバリのカミナリ飛ばせるのかよ!!すげえ!!」
「いやどう考えても今のオマエじゃ無理だネ」
「無理なのかよ!?」
「まずは一桁台をできるようになれ。破道の一、衝」
「っわ」
流石に戦い慣れているとあってか小突くような軽い攻撃にはすぐさま反応して避けた。反射神経は良いがいかんせん彼は本能で動くタイプの人間だ。力を操るイメージを教えたとしてもコツを掴むまで時間がかかるかもしれない。だがなんとしてでもマオが帰るまでには百雷程度の鬼道くらいは撃てるようになっていてもらいたい。おそらく彼は、立場が変わったとしても戦い続けるだろう。であるならばその程度もできないようでは到底命は守れない。
「ちょっと急がないとネ」
エースは、己のけじめのつけ方でもあるのだから。