夕方になっても雨が止む気配は無かった。皆体育館で大人しく練習に励むが、その姿はどこかつまらなさそうだった。青空の下で風に当たりながらテニスをしたいのだろう。その気持ちは平古場も同じだった。
「金ちゃん!あんまり走り回ったらあかんで!」
「だって外出られんくてつまらんもーん!」
 二階から四天宝寺中の二人の声が聞こえてくる。特に白石の声に平古場は大きく反応した。先程の彼の表情を思い出して彼は溜息をつきたくなった。白石は慣れた感じで梨胡に話しかけていたし、自他共に認める完璧さ、そしてあの爽やかスマイルときた。ある意味不二より強敵かもしれない。
 ――そんな折。
「あっ危ない!!」
「えっ!?」
 丁度二階へ続く階段の前を通り過ぎようとしていた時だった。白石の切羽詰った声と、女の子の慌てた声。何だと思い階段の見上げてみる。
「……――は?」
 天使が舞い降りたのかと錯覚した。
 洗濯物が飛ぶ中、何故か梨胡が降ってきた。ばっちり目が合う。彼女の背後で遠山と白石が口を大きく開けてびっくりしている姿があったが、平古場の目は彼女を捉えて離さない。「凛!!」甲斐の驚いた声が聞こえたが、脳は反応しなかった。そして平古場は意識せず、両手を広げて彼女を抱き留めた。
「っでェ!!?」
 梨胡の柔らかい体をキャッチした刹那、額に固い何かがぶつかって平古場は後ろに倒れる。
「ごッごめん!ねえちゃん大丈夫?!」
「平古場くんも大丈夫か?!」
 慌てた様子で階段を下りて駆け寄ってきた二人を一瞥する。額が痛くて仕方がない。何が降ってきたんだと辺りを見てみると、洗濯カゴが転がっていた。どうやらあれが額に直撃したらしい。
「っごめん平古場!」
 ばっ、と顔を上げる梨胡。そこで平古場は彼女との密着具合にやっと気づいた。(や、や、や、やわらかっ!?!)太っているからとかそういうのではなく、男の自分とは違い、女の子としての柔かさが梨胡にはあったのだ。全体的に細くて折れてしまいそうで、その中にふわんと香る優しい匂い。
「! 額、ちょっと赤くなってる」
 この密着具合でもいっぱいいっぱいなのに、あろうことか梨胡は平古場の頬に手を添え、もう片方の手で髪をかき上げて額を凝視し始めた。前髪が梨胡により上げられているので、彼女の顔がよく見えた。
「湿布貼ったほうが良いかも…………あっ…ごめん、ずっと乗ってて」
「…ぁ……………………うん」
 やっとできた返事は、ひどくか細かった。
「凛!大丈夫か!?」
「……………………」
「………別の意味で大丈夫じゃありませんね。済みませんが梨胡クン、平古場クンを医務室までお願いできますか」
「うん、そのつもり。任せて」
「わっわいも行く!」
「俺も行くで」
神様の気まぐれ


|
/top