あれよあれよと連れられ、平古場は医務室にいた。先程の騒動を聞きつけ、この場には当事者たちだけでなく跡部と手塚も同席していた。
「さ、さんきゅ」
「私の所為だからこのくらいはどうってことない」
「ちゃうで!わいのせいや!ね、ねえちゃんもにいちゃんもほんまごめん!」
どうやら走り回ってた遠山が丁度階段を下りようとしていた梨胡の背中にぶつかり、その反動で梨胡は足を滑らせたらしい。元気すぎるのも困ったものだと平古場は苦笑した。
「金ちゃんが堪忍な。大事なくてほんま良かったわ」
白石の安堵した顔に、平古場は先程敵視していたことに申し訳なさを感じた。悪い奴ではないことくらい分かっていた筈なのに、梨胡が絡むとどうも冷静でいられなくなる。落ち着け落ち着けと平古場は深呼吸をした。
ふと梨胡に目をやる。形の良い眉がきゅっと寄っていた。
「?…やーは、大丈夫か?」
「…大したことは、」
「越前、左足を見せろ」
がっしりと梨胡の腕を掴んで離さない跡部。いきなりのことに梨胡も皆も驚いた。
彼は無理やり梨胡をベッドに座らせるとジャージをめくりあげる。梨胡の細くて白い足に平古場はくらりときた。だが跡部はそうではないらしく、何を思ったのか彼女の膝を押した。
「うっ……!」
「ったく、何が“大したことは”だ。ひどい打撲じゃねえか、アーン?」
内出血を起こしているのだろうか、みるみる内に赤くなってゆく膝。彼女の肌の白さと対照的な赤さに痛々しさを感じる。跡部は手際良くその赤い膝にアイシングを施す。冷たさが沁みたのか、梨胡の肩が小さく跳ねた。すると治療を暫く見ていた手塚が口を開く。
「梨胡、今日の残りのマネ業はしなくていい」
「! でも…」
「幸い屋内での練習だし、俺たちだけでもなんとかできるだろう」
「そうだな。壇だっているし、まあなんとかなるだろう。お前は怪我を治すことに集中すればいい」
跡部にも言われ、渋々頷く梨胡。
「わっわいが今日、ねえちゃんの分のマネ業する!」
「金ちゃん!?」
「ねえちゃんがこないなってもうたんはわいのせいやし、これくらいするわ!」
遠山の予想外の提案に誰もが驚いた。それに彼にマネ業ができるか心配だった。彼とはあまり親しくない平古場でさえ、それは無理なんじゃないのかと思ったくらいだ。
「………どうしたい、梨胡」
ここで手塚は梨胡に意見を求めた。
「ねえちゃん!わいにやらせて!!」
「………じゃあ私も手伝う」
「何でや!それやったら意味ないやん!ねえちゃんは休んどったらええねん!な?な?ええやろ!」
「………越前さん、俺からも頼むわ。金ちゃんのことは俺もフォローするから、ここは一丁任せてくれへんやろか」
まさかの白石の頼みに梨胡は暫し考えてから眉を下げて了承した。
「おおきにねえちゃん!ほんならわい、早速やるわ!」
「こら金ちゃん待ちィ!ありがとうな越前さん!」
慌ただしく医務室から出ていった二人。少し心配なのか梨胡は不安げに閉まったドアを見つめていた。
「………さて、俺様も行くか。平古場、お前が越前を部屋まで送って行ってやれ」
「はぁ!?」
「む、待て跡部。平古場も怪我を…」
「アーン?こいつは良いんだよ。怪我の功名ってやつだ。…んじゃ任せたぞ、平古場」
にやりと意地悪に笑うと、跡部は手塚を引っ張って出ていった。まさか跡部は自分の気持ちに気づいているというのだろうか。そうでなければこんな気遣いはしない。気づいていなけれは手塚のように、怪我人の見送りを怪我人にさせたりしないだろう。
よりにもよって嫌な奴に大きな借りができてしまった。悔しいが、とても嬉しかった。平古場は取り敢えず心中で跡部に礼を言うと、困惑している梨胡を支えて医務室をあとにした。
神様の気まぐれ
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