「…あの、ありがとう」
「えっ?」
「平古場も怪我してるのに…」
 梨胡の手の薄さ、細さに驚いているとそんなことを言われた。彼女に触れられている、また一緒にいられているので己の怪我の具合なんて正直まったく気にならなかった。
「わんはこのくらいどうってことないさ」
「そ、か…………っ」
「あっ。わっさん(ごめん)、歩くの速かったみ?」
 梨胡の歩みは覚束無い。平古場はあの時ちゃんと受け止めたと思っていた自分を殴りたくなった。
「………あ、凛」
「ぬーそーがみ(何してんの)?」
 すると暫くして偶然にも知念と田仁志に出くわす。
「いなぐナンパそーがみ?」
「なっ…ふらー!うんぐとーるねーやんやっさー(そんなわけないだろ)!」
「…梨胡、怪我しはるぬみ?」
 梨胡の不安定な足取りで察したのか僅かに眉を寄せる知念。そこで出てきた名前呼びに、平古場はまた胸が潰されるような感覚を受ける。だが知念はそのことに気づかなかったのかそのまま平古場に視線を移した。
「凛も怪我してる」
「あー…わんは大したことねーん」
「………二人ともお大事に」
「ありがとう、知念」
「………にふぇー」
「凛、くぬ機を無駄んかいさんけーよ」
「よっ余計なお世話やっさー!」
 “この機を無駄にするなよ”まさかここで言われるとは予想していなかった。だが知念の言う通りこれはまたとないチャンスだ。これで仲良くなればきっともっと梨胡に話しかけやすくなる。だから平古場は絶対に誰にも邪魔されず梨胡を送り届けたかった。
 平古場の願いは聞き届けられたのか、知念たちと別れてからは誰にも出くわすことなく梨胡の部屋に辿り着いた。
「ありがとう、平古場」
「…ん、気にすんな」
「あ、ちょっと待ってて」
 梨胡は部屋の奥にあった自分のバッグを漁る。何をしているのか気になったが、無許可で彼女の部屋に入るのはなんだか憚られた。
「はい」
「え?」
「飴」
 飴玉が袋に何個か入っている。「帰りにリョーマや菊丸とかにあげるつもりだったけど、平古場にあげる」梨胡はいつもは見せない年相応の笑みで述べる。
「えっな、何で…?」
「だってあの時、平古場が私を受け止めてくれなかったらもっと酷い怪我を負ってたと思うし、私も平古場に怪我させたから。……今手元にあるのが飴だけだから、それで許して、お願い」
「わっわんは別にやーがわんを怪我させたとか思ってないさー!」
「そう………じゃ、それお礼」
 そう言うと梨胡はまた笑った。
「飴、嫌いだった?いちご味なんだけど」
「嫌いじゃないけど………」
「そう、なら良かった」
 今日はよく笑うんだと平古場は驚く。いつもの彼女はもっとクールで笑わなくて、雰囲気もぴりっとしている。
「ゆ、………夕食の時、迎えに来る」
 だからつい、こんなことを図々しくも言ってしまった。
「え?」
「さっきのやーの歩き方じゃ不安やっしー。迎えに来てやる」
「でも…」
「わんが好きでやりたいだけだからやーが気にすることない」
「………………じゃあ、お願い」
「まっ任せろ!」
 そうして平古場は梨胡の前で、やっと笑えた。
神様の気まぐれ


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