「遠山、大丈夫?」
 洗濯室の前を通ろうとした時、平古場は偶然にも梨胡の声を聞いた。ぴたり、脚は止まる。
「おっねえちゃんや!大丈夫やで!ちゃんとやってんで!」
「何言うてんねん金ちゃん。さっき洗剤入れすぎてアワアワなっとったやん」
 更に届いた遠山と白石の声に平古場の心臓は跳ねた。遠山はともかく白石も一緒にいることに胸が軋む。彼は何故、こんなにも上手く梨胡と話せるのだろう。
「………練習で忙しいだろうし、何かあったら言って」
「えぇー!せやったらわいが手伝っとう意味無いやん!」
「…でも遠山ってこういう作業苦手そうだし」
「うっ、そ、それはそうやけど…」
「まあまあ。確かに越前さんの言うことはほんまのことやし、ま…俺らでどうしようもなくなったら最終兵器として越前さん呼ぼかな」
 何で、そんなに気安く呼べる。何で、そんなに楽しく話せる。何で、そんなに笑い合える。(………あー…)ぐしゃり、前髪をかき上げる。夕方梨胡に貼ってもらった湿布の感触が彼女を求めだす。同時に白石の度胸が羨ましくなった。
「……平古場、そんなところで何をしている」
 不意の第三者の声に平古場はそちらを見る。
 手塚だった。
「額は大丈夫か?」
「あー…まあ、うん」
「まったく…跡部も怪我人に怪我人を送らせるなんて…。済まなかった、本来なら俺が梨胡を送る筈だったんだが」
 手塚は本当に平古場の気持ちに気づいていないらしい。それが良いのか悪いのかは知らないが、平古場は彼が梨胡のことをどう思っているのか非常に気になった。
「やー、はさ」
「何だ」
「越前姉のこと…どう思ってんだ?」
 その問いに手塚は不可解そうに眉を寄せた。
「非常に優秀なマネージャーで、俺たちを支えてくれていることに感謝しているが………それがどうした?」
「あー……その」
 言っていいのか…いいや言ってしまえ。平古場は勇気を振り絞る。
「そ、の…越前と仲良くなるにはどうしたらいい?」
 予想外だったのかその質問に、手塚は珍しく面食らった顔をした。
「それは…友人としてか?」
「……ッ…」
「……そうか」
 恥ずかし気に目を逸らした平古場に全てを察したのか、手塚は顎に手を添えて一考する。その仕草からして、平古場は手塚が梨胡に対し本当にマネージャー以上の気持ちを持っていないことを確信して密かに安堵する。
「…平古場、場所を移そう」
「え?」
まだ目が見れない


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